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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十八話 奇襲 虚実の迎撃
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「私は内政の失策を戦争で誤魔化す様な無能な為政者に仕えるのは御免ですので。」
 そして挑発的に嗤って見せる。
 ――カリスマのある偉大な軍略家である美姫よりも、より良く平時の組織を運営する中年男――若殿様の様な上司の方が自分の人生を預けられるって事だ。

 ピクリ、と体を震わせ、東方辺境領姫が押し殺した声で答える
「そう、それが貴男の選択ね」

「そういう事になりますね」
 自棄と果断をないまぜにし、豊久は自身の旧友の如き笑みを浮かべる。

「良い事?私が貴男の愛しい故国を滅ぼすまで生きていなさい。
どんな顔をしているか愉しみにしているわ。」
 凄惨な笑みを浮かべている美姫を見て豊久も自然と笑みが浮かぶ。
 ――おお、こわいこわい。
「安心して下さい、殿下。私も殿下が〈帝国〉にお帰りになられる時の御尊顔を拝見するのを愉しみにしていますから。
美姫は泣き顔も美しいのか、些か興味がありますので」
懺悔を聞く拝石教の聖職者の様な笑みを浮かべて言い返す。

「フフフ・・・」
「・・・・・・」
互いに笑みを交わす。ユーリア殿下がチラリと部屋の垂幕を見る。
「こう、俘虜の身になると〈大協約〉が有難く思えます。
苗川辺りでは恨み言を呟いていたと云うのに、やはり法規は相互に遵守するからこそ意味があるのですね」
ぼそり、独り言の様に但し聞こえる様に呟く。
茶を飲もうとし、空になっている器をみて豊久は眉をしかめた。

「そう、敬意を払うべき対象に敬意を持たないのは愚者の行いね。
ならば私も〈大協約〉と貴官に敬意を払ってこう言いましょう。
――とても残念、と。さぁ、お下がりなさい」
〈帝国〉陸軍元帥の顔になった。
「それでは」
退出の礼をし、部屋を出ようとする豊久を追いかける様に声が聞こえた。
「後悔するわよ」
 ――笑わせるな。
「どちらが?」



部屋の奥、そこに掛けられた垂幕から護衛のカミンスキィが出てきた。
「あの男、真に此方に引き込むつもりだったのですか?」
「嘘はつきません。東方辺境領の貴族になれば生殺与奪は私が握れる。
無能なら殺し、反旗を翻す様なら私が叩き潰せる。」
 ――あの押し殺していた野心、上手く扱えば面白そうだったのだけれど。
ユーリアは取り逃がした獲物が出て行った扉へ視線を送る、
「あの男、掴み所が無いですね。敵に回す事も味方として轡を並べる事も危険でしょう。」
秀麗な眉間に皹が入っている。
 ――同族嫌悪って奴かしら、アンドレイ?野心の隠し方は貴方の方が下手だけど。
「そうかしら? 思ったより可愛らしい所もあったけど」
外面の崩れた後のあれは驚いた。
あの子供の様な表情、あれ程心根が剥き出しにした顔はそうそう見れないわね。

「あぁ、矢張り惜し
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