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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十八話 奇襲 虚実の迎撃
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だ肩を竦めるのみ。

「そうかしら?平和はただの備えの時期、戦争と平和の違いは一つではなくて?」
 ――議論を挑むには極論にすぎますよ、姫様。
傷口をほじくりかえしながらも相手が乗ってきた事で安堵の笑みを浮かべる。
ここで語調が変わったということは本気で食いついてくれた可能性が高い。
「同じ資産が増える可能性があるからと商売と賭事を同列で扱うのは適切では無いと思います」

「随分と婉曲的に言うのね。」

「ならば、限りある人材と資産を浪費する時期を平時と同列に扱うべきとは思えません、と言うべきでしょうか」
 ――侵略戦争とてそうだ。そんな事をするくらいなら貿易で搾り取る方がより効率が良い。
それで国力を削ぎ、技術と教育を発展させればさらにやり方が増える。
「成程、ね。やっぱり貴男は官僚――いえ、商人に向いているわね。
貴男の言う商売下手の〈帝国〉に居たのなら大商会を構えていたかもしれないわ。」

「どうでしょうかね?〈帝国〉にいたら今度は軍人向きに育つかもしれませんよ?」
少々戯け気味に言うと姫様は瀟洒に微笑を浮かべ
「軽口好き同士、クラウスと気が合う筈ね」と明るい声で云った。

 ――クラウス?随分と親しそうだ、元侍従武官とかなのかな?
「参謀長殿は何と仰っていましたか?」

「褒めていたわよ、彼」
微笑みを残し、言葉を続ける。

「そう、己の幕営に居ない以上、首を刎ねたい程に素晴らしい、と言っていたわ」
 <大協約>世界最強の陸軍を率いる女傑の目に剣呑な光が閃く。
その覇気を肌に感じ、豊久は思わず固唾を飲んだ。
「それは――褒めていただいているのでしょうか?」

「寧ろ、賞賛している、と言うべきでしょうね。私も同意見です」

「――刎ねるのですか?」
 冷や汗を流しながらも無理矢理唇をねじ曲げた豊久の言いぐさに今度こそ声をたてて姫が笑い――
そして真っ直ぐと豊久の目を見て微笑を浮かべながら手を差し出す。
「まさか!此方の幕営に来なさい、と言っているのよ。」
豊久の頭が真っ白になった。

「貴男になら少なくとも連隊を預けられる。
功績をあげれば、望むのなら私の参謀にしてあげても良い。師団だってあげるわ。
爵位も与えられる。それこそ、貴方の働き次第では故郷のもの以上の位階を」
 煌めく碧眼に魅入られたように豊久は半ば呆けたように黙りこくる。
「能力があるのならば、この国を鎮定した後、統治に一枚噛ませあげてもいい。」
 ――このくにを? おれが?
 野心の熾火が掻き立てられた。
 ――俺が知っている別の世界の可能性。権力があれば、新たな時代の行く末を読み切り何かを手に入れられるかもしれない。

「ようやく――」
 ユーリア姫が満足気に対面に座る青年の顔をのぞき込む
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