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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十八話 奇襲 虚実の迎撃
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程度は向こうも分かっているだろう。それに必要最低限の領域までは、馬を剣牙虎に慣らす訓練もそろそろ体系化される頃だ。鵜呑みにしてくれるならありがたいくらいだ。
当たるさわりのない答えを模索しながら、戦姫の分析を行う。
――この姫様は、自分が主導権を握っていることは当然理解している。だからこそ勢いを嵩にかけて考えさせない気か、ならば
「それでは部隊間の連絡に苦労するのでは?」

「はい、実験部隊ならではの苦労でした。
――其方の御国でも同様の部隊がいるのでしょう?」
 一拍おいて意味ありげに微笑する。
「――」
ユーリアが言葉に詰まると逆に畳み掛けるように豊久が言葉を発する。
「実験部隊とはその様な物です。得体の知れない物をなんでも手当たり次第に詰め込んだ部隊なのですから上層部からは信用なんてされませんよ」
 ――そりゃそんな部隊はまともな軍隊ならどこだってあるに決まっている、バーナム効果のちょっとした応用だ。会話のキャッチボールに付き合う気は無いよ、姫様。
 相手のもくろみを崩し、豊久は笑みを浮かべる。
 無論、ここで仕掛けたのには意趣返し以上に意味がある、導術兵は、他の部隊では殆ど使用されていない為、ほぼ確実に現状では導術の軍事利用に関する情報を自分達が独占している。そして《帝国》の国教は反導術であり、厳しい弾圧を加えている。
 単なる軍事情報の流出――勿論、それも深刻な問題であるが――以上に反導術思想と現実的な脅威の結合は、危険なものであると判断したのである。

「そう・・・その様な部隊、それも高々七百名の大隊で全軍の足止めをしたのですか。」
 ユーリアはやや皮肉気に話題を変える。

「えぇまぁ、嫌がらせとハッタリだけで時間を稼いだ様な物です。
派手な敗北で始まり、地味な敗北で終わりましたが、その間にあるのは、それだけです。」

「嫌がらせ、ですか。自国の村を焼くのを嫌がらせの一言で済ませるのですか?」
 古傷を抉られようと顔色一つ変えずに豊久は答える。
「負け戦だから選択した邪道です。あの様な状況でなければ絶対に行ないません」

 ――メレンティン参謀長からも聞かれたな。あの時以上に動揺しているのは何故だろう?
 ふとそのような事を思いながら青年将校は言葉を続ける。
「如何に上手く敗けるか、なんて二度と考えたくありません。」
 感情的な声を出さないように、無感動に、と細心の注意を払いながら自己と相手を批判する理論を紡ぐ
「所詮、戦術の中でも邪道です。
それを使わざるを得ない戦況に陥った時点で戦略として破綻しています。
戦争なぞするものではありませんね。
金も命も浪費します、挙句の果てに信用まで叩き売りです。
軍の大半が暇を持て余すくらいの方が少しはマシな世の中でしょう」
感情は出さずた
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