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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十八話 奇襲 虚実の迎撃
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ていましたからね。いや、まさか――」
 あてつけがましく首を振るがユーリアはクスリと笑うだけであった。
「意外でしたか?」

「ええ、まさに奇襲でした。あぁ、これは先程も言いましたか」
 微笑に僅かに苦いものが混じる
 ――やれやれ、メレンティン大佐殿以上かもしれないな、これは。
 僅かに口元を緩め、敢えて俗な視線を飛ばす。
 ――まぁこうして見ると胸でかいし美人だし胸でかいし中々眼福だ、と前向きに考えよう。
「心なしか不躾な視線を感じるのですが?」
 ユーリアがにこやかに殺意を放つが、豊久はそれを飄然と受け流す。
「気のせいです、殿下」
 ――怖い見張りも居るだろうしね。あのわざとらしい垂れ幕の辺りかな。
 流石に侍女一人だけということはないだろうという常識的な考えからの帰結である。
 さすがというべきか、豊久には護衛がどこにいるかは分らない。
「言っておきますが、男性としての貴方には惹かれません。」
 ユーリアに冷ややかな目で睨まれるが、悪意に対しては豊久の面の皮は無駄に厚い。
「手加減して頂きたいものです。そうはっきりと美しく、身分も何もかも圧倒的に目上の貴婦人に言われるとひどく堪えます」
 にこやかに返答する姿はやり手の商人じみたものであった。
 ユーリアは悪戯めいた微笑を浮かべてそれに応え
「それは困りますね。なにしろ軍人としての貴官を私は高く評価していますから」
 そういうのと同時に敬意と敵意をないまぜにした総司令官の顔になる
「あの先遣隊を叩いた夜襲、そして、その後の異常なまでの戦果には驚かされました。」
 そう言って茶に口を着けた時には誰もが彼女が<帝国>陸軍元帥であることを疑うことはないであろうと豊久を感嘆させるほどの変貌であった。

「殿下、その言葉、私の前任者が聞けば誇りに思うでしょう。」
 そう云う豊久の脳裏では皮肉な笑みを浮かべる図しか浮かばない。
「あら? 貴男はその大隊の幕僚だったのでしょう?
そしてそこから大隊長を引き継いだ、と聞いています。」
 その口調はまるで試すかのようだった。
「はい、情報幕僚でした。
尤も、まともな報告が一つしか無いので仕事にあぶれていましたが。」
 そう答えると
「まともではない報告は?
数多くの情報から取捨選択しそれを得たのでしょう?」
素早く問いが飛んでくる。
 ――成程ね。
「いえいえ、中々集まりませんでした。
天狼では文字通り情報が錯綜しましたがまぁその後は捜索部隊からの情報だけが頼りでした。」
 祖父から三代続く馬堂家秘伝の胡散臭い笑みを貼りつける。
「騎兵伝令は使わないのですか?」
 質問の早さが段々と早まる。
「はい、殿下。何しろあの猫は馬を怯えさせるので、偵察は徒歩で行うしかありません」
 ――この
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