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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十八話 奇襲 虚実の迎撃
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 ――山積みの書類に生乾きの吸い取り紙。
 
 ――それだけか?

 ――この部屋に入る前に何を見た?

 ――黒に映えた白く美しい手――白い?
 ストン、とこの状況を説明する常識の埒外にある論理が嵌った。
最敬礼である二刻半の礼をするが、窓辺の人物は未だ動かない事がその突飛もない論理に説得力を与えていた。
 蛇口を捻ったかのように豊久は汗を流し始めた。
 ――え? ま さ か
 頭を上げ、ジリジリと違和感の源である侍女の服を纏った美女へと向ける。
確信があったワケではない、生前(?)の記憶に残る本の迷警部曰く、“俺の直感がそう言っている”予断ありきの推測でしかない。
 だが豊久の探るような視線に応えるかの様にその女性はクスクスと笑い始めた。
 その笑い声に呼応するように心臓が早鐘のような音を打ち、冷や汗が湧き出す――が、何処かそれを演出の様に愉しんでいる自分が居る事も豊久は自覚していた。

 そして、謎解きの正誤が告げられた。

「もういいわよ、クラウディア。下がってちょうだい」

 そう言われて、ようやく振り返ることができた元帥の軍服を着せられた哀れな侍女は、豊久に負けず劣らず冷や汗を流していた。
 ――まさかこんな事をやるとはね。何とも行動的なお方だ。
早くもこの場の主導権を握られた豊久は諦観をもってその光景を眺めるしかない。
動揺している自分が何を言っても間抜けにしか見えないだろうから。
「ふふふ、少佐、私が〈帝国〉東方辺境姫ユーリアです。
貴男の属する軍隊を敗北させた鎮定軍の司令官よ。」
 未だ笑いが収まらない姫に対して豊久は一応二刻半の礼をする――敬意が欠片もこもってないが。
「馬堂豊久です」

「どうやらまたも貴男を奇襲し損ねる所だったようね。」

「いえ、十二分に驚きました。
屑籠を見る貧乏性と殿下の美しい手を見る不躾さを持ち合わせていなかったら失神していたかもしれません」

「それは大変」
 ユーリア姫は、クスクス笑いながら着替えをしに部屋へと行った。



「慣れも良いものじゃないわ、何時も同じだと退屈してしまうもの。
だからたまにこうして遊ぶの。」
 軍服に着替えたユーリア姫が楽しげに話す。

「そうしたくなるお気持ちは理解できます、殿下」
 そう答えながら豊久は外交用の笑顔を浮かべているが、流石に退屈しのぎに弄ばれるのは好みではない。
「随分、不機嫌そうですね?」
 此方を見て、微笑みながらユーリアは云った。
「そう見えますか?」
「見えますね」
 ――にべもない、こう押しが強い女性は苦手だ。
 思わず嘆息する。だからといって控えめな女性が得手かというと首を横に振らざるをえないのだが。

「突然呼ばれ、何事かと身構え
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