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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百九十話  憲法制定に向けて
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たね』
更に笑った。久し振りだ、こんな風に笑ったのは。

『門閥貴族全盛時の政治は酷かったようだ。専制君主制国家の悪い面だけが出たのだろうな。だから民主共和政が美しく見えたのだと思う』
「なるほど」
『今では彼らも議会制民主主義の導入は危険だと考えている。三十年後、同盟市民が自分は帝国臣民で帝国の繁栄のために義務を果たさなければならないと考えるだろうかと言われたよ。彼らの危惧を否定は出来ない』
笑いは収まりトリューニヒトは生真面目な表情をしていた。

「難しいだろうな」
『ああ、私も難しいと思う。残念な事だが議会制民主主義の導入は危険だとヴァレンシュタイン元帥が考えるのは無理もないと思う。同盟と帝国は百五十年に亘って戦ってきた。その事実を軽視すべきじゃない。軽視すれば人類は混乱するだろう』
残念だがその通りだ。政治制度に囚われるべきではないと言ったヴァレンシュタイン元帥の言は正しいのだろう。

「……民主共和政の終焉か」
『とも言えんよ』
スクリーンのトリューニヒトは笑みを浮かべていた。
「どういう事だ?」
『惑星レベルでの地方自治では民主共和政を認めても良いのではないかと改革派は考えている』
思わず唸り声が出た。そうか、地方自治が有ったか。

「中央で議会制民主主義を導入すれば感情的な意見の対立しか生まない恐れが有る。しかし地方自治ならその弊害は有っても少ないか」
『そういう事だ。帝国中央においては皇帝主権だが地方自治においてはその主権の一部を臣民に委譲する形で民主共和政を認める。その方が政治に関心を持たせる事が出来るのではないか。結果的に政治の健全性を保てるのではないかと彼らは考えている』
中央は皇帝主権による君主制専制政治、地方は国民主権による民主共和制政治か……。二重統治体制による帝国の運営……。

「諦めるのはまだ早いな、トリューニヒト」
『ああ、まだ早い』
「主権が拡散すればするほど政治責任の所在が曖昧になる。そういう意味では確かに大国の統治に民主政体は不適格だ。ヴァレンシュタイン元帥の言う通りだと思う。だが地方自治になら……」
『主権の拡散は限定的だ。それならば民主政体は不適格とは言えない』
限定的な主権の委譲……。皮肉な事にヴァレンシュタイン元帥の言った言葉自体が地方自治での民主政体の実施の裏付けになっている。あの若者、何処まで考えていた?

「これからだな、トリューニヒト」
『ああ、これからだ。そのためにも自由惑星同盟は安定した統治を行う必要が有る。信頼を得るためにね』
その通りだ。ここで混乱すれば地方政治への導入さえ否定されかねない。そうなれば民主共和政は完全に否定されてしまう。

「良いのか、そんな内情を漏らして。お前さんは帝国を叩き出されたら行き場が無いぞ」
私が気遣
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