桃の香に龍は誘われど
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まに俺まで巻き込むな。だがどうしてもってなら……」
ふん、と小さく鼻を鳴らした彼は桃香から目を切って天上を見上げた。
へらへらと笑う彼の声は、何処か寂しげだった。
「好きにすればいい。所詮お前らなんか客分だ。北部への移動は事前に伝えておいてやるから勝手にどこでも行きやがれ」
「劉璋さん……」
「勘違いするなよ? 交換条件がある」
彼なりの気遣いなのだと受け取って声を漏らした桃香に、劉璋は冷たい視線を向けた。
唇を引き結んだ彼女は、コクリと小さく頷いた。
「もし部下が暴走して俺の兵がお前らと戦いに向かった時は全力で叩き潰せ。そんで成都まで乗り込んで来い。こっちも出来る限り内応してやる。そうすりゃめんどくさいカス共を迅速に取り除けるだろうからな」
願ってもない。益州内部の安寧を取り戻す為に手を組もうと提案してきているのだ。
まさか劉璋からそんな事を言って来るとは思わず、桃香は目を見開く。
一寸の逡巡の後、穏やかに微笑んだ。
「うんっ。益州の皆の笑顔を、絶対に守ってみせるよ」
「ふぅん……やっぱりお前が暗く落ち込んでるってのは似合わねぇな」
横目で桃香を見ながら挑戦的な目を向けて、劉璋も笑う。
少しだけ元気を取り戻した桃香は、劉璋の変化が心から嬉しい様子。
あの劉璋が協力してくれる、それはきっと、彼の事も変えられるという証に違いないと思えて。
「そんなに落ち込んでた、かな……?」
「ああ、死んだ魚みたいな目してやがった。嗤えたからあのまんまでも良かったんだが、うるさいバカがいねぇと俺の退屈が紛らわせないんだよ」
「あ! もう! いっつもそうやって私をバカにする!」
「うっせぇうっせぇ。事実だろ?」
「……どうせ私はバカですよーだ」
「くっくっ……ほら、もう終わりだ。諸葛亮のとこでも行って来い。俺もめんどくせぇがイロイロ準備しなきゃならねぇし」
「うん、分かった。ありがとうございました、劉璋さん」
「気にするな。これはただの取引きだ。お前の甘ったるい理想に絆されたわけじゃねぇからくれぐれも勘違いするんじゃねぇぞ」
「ふふっ、分かった♪」
「ちっ……はやく行け、うぜぇ」
「はーい」
口に手を当てて小さく笑った桃香は立ち上がり、ぺこりと一つお辞儀をしてから執務室を後にした。
ため息が漏れる。
腕を目に当てて上を向き、劉璋はだらりと片腕を垂らした。
「……バカが」
何処か満足気な声には、先程の寂しさなど微塵も含まれず。引き裂かれた口元からは、嘲笑と愉悦が溢れていた。
「これで条件は整った。感謝してやるよ、黒麒麟。お前は確かにめんどくせぇことを益州に持ち込みやがったが、俺は欲しいもんを手に入れられる。
後は諸葛亮の意識を引き付けて
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