桃の香に龍は誘われど
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やる」
冷めた口調に反して何処か穏やかな眼差しは、まるで微笑ましい子供を見るように……愛おしいモノを愛でるように。
劉璋は桃香の心を思い遣ることなどせず、楽しみに心躍らせて嗤った。
「お前らがよかれと思ってやってたことは、この益州を引っ繰り返す最悪の手に成り下がったんだよ。
皆で仲良く? 皆で手を繋ぐ? この状況で同じことが言えるのかよ? 内側さえ変えられねぇやつが外を助けたいだぁ? 笑わせるなよ劉玄徳っ!」
ふるふると、震える拳は悔しさからであろう。
桃香は一つも反論出来ない。現に芽生えてしまっている戦乱の兆しを理解していれば、劉璋に言葉を返すことなど出来ようはずもない。
――元からお前が俺のもんになっとけばよかったんだ。お前が一番上ってのが間違いだ。誰かの間に立ちたいなら一番上になんざなっちゃあダメなんだ。
上に立ち続けてきた劉璋にとって桃香の在り方は異端。しかして、彼女の行動や思想等にもある程度の理解は置いていた。
さながら現代で言う中間管理職のように、会社に於いて上司と部下の間になくてはならない緩衝材のような人間……それでこそ桃香の力が発揮されるのだ、と劉璋は考える。
上に立ってしまうと権力という力を得てしまう。否応なく抑えられる可能性を感じさせる事で必ずや桃香の理想の妨げとなる。
桃香が人々と対等の目線で接したいという願望を持っている以上、上下関係を与えてしまう権力は足枷にしかならないのだ。
彼女と自分は水と油だ。せめて自分の下で働くと決めてくれればこんな面倒事にはならないのだが、劉表を喪っている荊州との関係上完全に配下に置こうとも思えない。
劉表の娘である菜桜が治めていることにはなっているが、その菜桜が桃香に臣下の礼を取っているため劉障の部下に桃香を迎えてしまうと厄介なことになってしまう。
益州の安定させるには劉備と劉璋の上下関係の明確化は必須。そこから荊州を支配下におけば問題なく進められるだろう。
思考を打ち切った劉璋は大きなため息を吐き出した。
「考えなおせ。お前らが動けば益州の内部は余計に悪い方向に向かっちまう。助けたいって想いはお前のもんでそれは賞賛されてしかるべきことだろうよ。でもそいつをこの土地の人間に向けてやるのも大事だと思うんだがどうだよ?」
「……そう、だね。うん、そうだよ、ね」
諭すように語られる彼の声はどこか疲れていた。
その寂しげな空気を受けて、桃香の胸に痛みが走る。
どちらも救いたいという願いは傲慢なのだ。自分一人、更には仲間達の力を借りたとしてもまだ足りない。
元より全てを救うことなど出来ない乱世の理が、桃香の理想を嘲笑う。
ここで自分が動かないことは容易だ。痛みの走る胸を無視して、何処かで傷つくであろう
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