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婆娑羅絵巻
壱章
信太の杜の巫女〜上〜
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あの杜にはできれば近づきたくないね。」

「バーカ、桑原桑原は菅原道真だろ」

そう冗談を言いながら二人は茶屋の主人に代金を払うと足早に茶屋を後にしていった。



「…聞いたか小十郎?」

「………先程の旅人達の会話で御座いますか?」
小十郎は被った立山笠を僅かに上げ、視線をこちらに向ける。

「あぁ…とりあえず敵方の情報も集まったことだしお前は先に屋敷に戻れ。
オレは信太の杜に行く。」
好奇心からか政宗の口許には笑みが浮かぶ。
それを見て小十郎は呆れたように溜息を吐くとただでさえ皺の深い眉間の皺をより一層深くした。

「もし…只の戯れで向かわれるならばお止め下され、信太の杜は古より妖狐達の住まう神域と言われております。
それに彼処は敵方の織田に仕えている土御門の土地…土御門は陰陽の術に長けていると聞きます。
貴方様にもしものことがあれば誰が伊達家を_____」

「__んなこと元からわかってるぜ。
それに小賢しい狐なら今迄何度も相手にしてきただろ?」
小賢しい狐とは政宗の母方の叔父である出羽国領主・最上 義光(もがみ よしみつ)のことである。

元々幼い頃からよく知っていたが先代の死後、奥州を自分のものにしようと攻めてくることが今まで何度もあった。
相手が攻めてくる度、政宗は最上と戦って来たのだった。
それに表向きは戦っていなくともお互いの領地内には常日頃から忍びが跋扈している。


「…………あの羽州の狐と信太の狐は格が違います、侮られると痛手を負いますぞ?」

「Ha!妖術を使う狐、ねぇ……イイじゃねぇか
そいつ等が悪さをしてんなら、妖退治に洒落込むのもよォ…。」
政宗はくっくっと喉を鳴らし、残っていた茶を飲み干した。

「………貴方という人は……。」
もう諦めたのだろう、小十郎は再び溜息を吐き眉間に手を当てる。

「ッて訳だ、…帰りはお前より遅くなる」

政宗は腰掛より立ち上がると自らの分の代金を茶屋の主人に払い、厩に留めていた愛馬・後藤黒を引き出しては跨ると信太の杜へと向ったのだった。



それが約半刻ほど前の話である。
馬も通れない様な獣道である為、後藤黒は目付きになりそうな麓の木に留め此処まで歩いて来た。
信太の杜を散策しているうちに僅かに東に傾いていた日もいつの間にか高く昇って居る。

だが時間をかけ、散策した甲斐もあり旅人が話していた葛の葉狐が祀られている社に辿りついた。

此処まで来るのに通って来た獣道とは違い社の周りは高い木に囲まれているが結構開けていた。
正面の方に行くと神使の狐の石像と本来は通る筈であろう鳥居が見えた、成程…たしかに独特の厳かな雰囲気を感じる。

高い木で囲まれている為か薄暗く、周りはざわざ
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