双頭鷲勲章授与
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たのである。
帝国歴四八一年七月二十一日の〇八時三五分、大佐に昇進してから二十日が経ったアルブレヒトは出勤後デスクにつくとすぐに、軍務尚書室に出頭命令を受け出頭した。
この一連の不祥事において、事態の収拾までに帝国軍では大量の人事異動があったが、アルブレヒトの職務は第五分室から動いていなかった。ただ、今回の一連の綱紀粛正の発端がアルブレヒトとオーベルシュタインの属する分室というのが噂になるのにあまり時間を要さなかった。そのため、この二人の職場である第五分室は「魔の第五分室」と呼ばれ、当時の帝国軍はもちろん貴族や官界の人間の肝を冷やさせること甚だしく、二人は周囲の人間から畏怖されていたようである。
尚書室でアルブレヒトを出迎えたエーレンベルク軍務尚書は開口一番にこう告げた。
「デューラー大佐、卿にはこれより新無憂宮に行ってもらう」
「軍務尚書閣下、今何とおっしゃられたのですか?」
アルブレヒトは、鼓膜を揺らした単語の響きを一瞬で忘れてしまった。憎たらしい部下の呆然とした様子に気をよくしたのか、軍務尚書は少し口角を上げつつ二度目を告げた。
「本日一三〇〇に新無憂宮に参上せよとの国務尚書リヒテンラーデ侯爵からの急な通達だ。皇帝陛下の急な御発案だそうでな、卿には“双頭鷲勲章(ツアイト・ウイング・イーグル)”が授与されるそうだ」
「軍務尚書閣下もお人が悪い、冗談でありましょう?」
軍務尚書の言葉に、アルブレヒトが引きつった笑いを浮かべてそう言うが、軍務尚書は何も答えなかった。
「本当なのですね、閣下」
アルブレヒトのかすれた声にエーレンベルク元帥は口を真一文字に結んだまま頷いた。
「で、ですが軍務尚書閣下。閣下も御存知のように、小官が立てたのはこれまでの受勲者の方々のような輝かしい武勲ではありません。軍・官界・貴族これら三つの汚点を引き摺り出す様な事なのです。先日の大佐への昇進でさえおこがましいと思わずにはいられませんのに、ましてや名誉ある帝国軍人にとって最高級の栄誉と伝統を誇るあの“双頭鷲勲章”まで戴くなどとは、いささか論功行賞も度が過ぎると小官は愚考致しますが」
「仕方なかろう、昨日の三長官会議で皇帝陛下がそうおっしゃられたのだ。それと、卿はもう大佐ではない。“閣下”と呼ばれる身なのだ」
「閣下と、おっしゃいますと?」
「卿は“双頭鷲勲章”の授与と同時に准将に昇進だ。よいな、デューラー“准将”」
アルブレヒトは再び呆然とした。新無憂宮に参上し、皇帝フリードリヒ四世に謁見するのはまだよい。だが、勲章の授与と同時に准将に昇進とはどういう事であろうか!
アルブレヒトとしては、身内であるミュッケンベルガーに手数をかけているという自覚から昇進するのを躊躇ってすらいるのだった。そこにこの勲章の授与である。先日皇帝臨御の下定例の三長官
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