軍靴の踏み鳴らす音
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テンベルク伯爵は“警察官僚がたまたま貴族の服を着ている”と揶揄されるほどの堅物な男だった。遊蕩児であるカール・マチアスのことは聞及んでいたし、彼の生計に対する観念もその外見と相違なく堅物らしいもので、妹との結婚した後の生計の立て方について厳しく追及した。彼、カール・マチアスは軍隊での職務に精励しているわけでもなく、栄達が望まれるものではなかった。彼はそれだけでは家計が心配であったのか、生計を立てるために、とうとう非合法な手段に手を染めた。
それがサイオキシン麻薬の密売であったのだが、それが時を経て内務省の警察上級官僚であったハルテンベルク伯爵にその事が露見した。伯爵は本来、それを摘発するべきであったが、妹の婚約者、つまりは将来的に自らの義弟になる男が、帝国でも大逆罪に次ぐとも言われる重罪人である事に、彼は恐怖感を覚えたに違いない。
警察官僚としてこれまで積み上げてきた自分のキャリア、家の名誉、妹の将来、それら全てを守るためであったのかどうかは分からないが、彼はカール・マチアスの長兄であるフォルゲン伯爵を抱き込んで、両家の連名で軍に圧力をかけさせ、カール・マチアスを中佐待遇の会計士官として惑星カプチェランカの第二基地、通称“BU”に派遣させた。
その派遣から三カ月後、同盟軍の攻勢が激化し、基地では防衛線を突破した敵部隊が侵入、内部では戦斧を交える白兵戦が起きた。カール・マチアスは不運にもその戦闘の最中、敵の白兵戦部隊に唐竹割りとされて、名誉の戦死を遂げ、准将へと二階級特進し、フォルゲン伯爵による盛大な葬儀が取り行われ、真実は彼の遺体と共に土の中に葬られた。
当事者たるカール・マチアスの謀殺とも呼べる戦死で一応の静寂を迎えていたこの事件であったが、今回の調査でこの非公式な処刑が明るみになり、両名の逮捕へと至った。これは、サイオキシン麻薬の発覚を受けて帝国軍へ嘲笑、冷笑を浴びさせていた官僚社会、貴族社会にも衝撃を与え、捜査範囲はそちらにも否応なく発展した。軍を嘲笑していたその顔が、徐々に引きつり始めたのである。
特に内務省は自身の管轄にある調査組織の高官が密売の隠蔽に関与し、逮捕された事で一連の事件の捜査に対する発言権を完全に失った。これで事件の民間人組織摘発に関する権限も完全に憲兵隊の手中に転がり込んだ。社会秩序維持局も、上に立つ組織が動けない以上、自らの独断で動くわけにもいかず、指を咥えて眺めているしかなかった。そして何より、社会秩序維持局と警察には情報が足りなかったのである。
憲兵隊の行動はそれほど素早く迅速で、それぞれの幹部を歯噛みさせること著しかった。特に貴族や官界に対する捜査の進展の速度は目を見張るものがあり、その情報源が当時飛び交った噂や憶測の対象となったのだった。
その後の調査では、サイオキシン麻薬密売の官界に対する広がりよりも貴族社
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