軍靴の踏み鳴らす音
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のか。これでは現地憲兵隊も完全には信用できん」
「断言はできませんが、可能性としては充分に考えられます。さらに申し上げるとすれば、ケスラー中佐が検挙した第九辺境基地も、カイザーリング艦隊の寄港地の一つです」
「氷山の一角に過ぎんのかもしれんな」
「残念なことですが」
伯父の呟きに、アルブレヒトは小さく頷いた。
このミュッケンベルガーの呟きは、まさに事態の展開を端的に表していた言葉であったといえるだろう。
年が明けてから間もない帝国歴四八一年の一月九日、事態の劇的な変化のきっかけが訪れた。ボーデン星系、クラインゲルト星系にある辺境基地からサイオキシン麻薬が発見される。調査の結果、その製造はそれぞれの周辺に存在する有人惑星、若しくは無人化された補給基地において行われ、輸送は辺境警備艦隊の補給物資に混じって運搬されていたのだった。
辺境警備の憲兵隊には軍務省より再調査・増派が命ぜられ、辺境地域の大地は憲兵隊の軍靴によって踏み慣らされた。憲兵隊は本来その職務を超えた民間人組織の摘発にもとりかかった。そして、一部の基地で製造されたサイオキシン麻薬がオーディンへと帰還する輸送艦の物資の中に混じっていたことが判明、事件は辺境部だけに収まらぬ事態となった。また、一部辺境自治区の中にも民間密売組織が確認され、憲兵隊によって摘発される。こうして事態は一気に、燎原の火の如く拡大して行った。
ゴールデンバウム朝銀河帝国には捜索、逮捕などの権限を持つ捜査機関は三つ存在する。一つは軍務省の管轄にある憲兵隊、内務省の管轄にある警察、そして社会秩序維持局。
民間人に関しては基本的に警察、若しくは社会秩序維持局が行う。無論、今回の騒動による憲兵隊の行動は甚だしい越権行為として公式・非公式を問わず内務省から痛烈な非難を浴びた。宮中でもこれらの事態を受けて軍に対する不信感を深め、大貴族達もそれを嘲笑した。しかし、彼らにも捜査の手は届くことになった。
帝国歴四八一年一月十六日内務省警察総局次長エーリッヒ・フォン・ハルテンベルク伯爵、そしてヨハン・アルフレット・フォン・フォルゲン伯爵が逮捕されたのである。この逮捕劇の切欠は、アルブレヒトが副官として参戦した第四次イゼルローン攻防戦の四か月前のある士官の戦死が全ての発端であった。
その士官の名前はカール・マチアス・フォン・フォルゲン。フォルゲン伯爵家の四男でフォルゲン伯爵の弟であった男である。軍務省の内勤の士官であったが、出勤回数も勤務意欲も御世辞にも褒められた男ではなく、その反対に遊蕩児としての評判はある程度高かった男である。
彼はハルテンベルク伯爵の妹エリザベート・フォン・ハルテンベルク伯爵令嬢と、彼本人は最初から望んだわけではないが、その女性と恋に落ち、両家の反対を押し切る形で婚約した。だが、エリザベートの兄であるハル
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