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銀河日記
カルテ作り‐二
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かろうからな」
ミュッケンベルガー上級大将の質問に、エーレンベルクは何時になく強い口調で返した。それにアルブレヒトは廊下で抱いた小さな疑問を確信に変えた。
「憲兵隊を動かす。辺境地域を担当するモルト准将らの力を借りて辺境部の基地を一斉に捜査・査察する」
それは、疑いようのない綱紀粛正の決定だった。それを聞いて、ミュッケンベルガーは驚いた。アルブレヒトとオーベルシュタインの表情に変化は見えなかった。
「辺境基地の一斉捜査ですと!一体何をなさるつもりなのですかな、軍務尚書」
「仕方なかろう。辺境基地の多くに公金横領、物資の横流しの疑いがかかっているのだ」
「その全てがそうだと、軍務尚書はおっしゃるので?」
「そうだ、卿が否定したくなるのも分かる。だが、これは事実だ。四日前、第九辺境基地に駐留する憲兵隊の一個大隊を指揮するケスラー中佐、二日前に第十七辺境基地の憲兵隊司令ブレンターノ中佐より、基地内の横領の摘発報告書が送られてきた」
「つまり、それが、他の基地にも連携したものだと軍務尚書閣下はお考えで?」
大雑把な言い方ではあるが、普通一辺境基地の汚職であれば、憲兵隊がここまで重い腰を上げるということはない。しかし、軍務尚書がこのような判断を下すということは
「そうだ、デューラー中佐。卿とオーベルシュタイン中佐が監察した書類の約半分がそれに該当するものだった」
「では、物資の横流しの方はどうなったのだ」
「恐らく、物資の横流しの方は後日判明したものでしょう。ケスラー中佐とブレンターノ中佐が金の流れを調べた結果、そこに行き着いた可能性が高いかと」
ミュッケンベルガーの問いにオーベルシュタインが淡々と答えた。
「事実としては、オーベルシュタイン中佐の言う通りだが、それだけではない。横領の摘発を受けて別の管区の方でも捜査が開始された、その際、横流しが明らかとなった。」
「何たることだ、軍の統制は、信用は、栄光はどうなってしまうのだ!これでは叛乱軍との戦闘もままならぬ」
ミュッケンベルガーとて、現在の帝国軍が鉄の規律を誇っているとは心から思っていないが、辺境基地は帝国辺境部の治安維持の拠点であり、辺境星区の安定はイゼルローン回廊への補給と出兵にとって欠かせない要素であったのだ。目の前に座る伯父の静かな憤慨を、アルブレヒトは申し訳なさそうに見つめていた。それをオーベルシュタインは見逃さなかった。
「デューラー中佐」
「なんでしょうか、分室長」
隣から聞こえるオーベルシュタインの声にアルブレヒトは背筋を氷柱で作った爪でなぞられたような悪寒が走った。全てを見抜かれているようなぞっとするような声だった。
「卿には、私に何か隠し事があるようだな」
アルブレヒトは、横から自らを射抜く義眼の怪しい光が一層強くなったように感じ、自らの敗北を悟った。
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