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鎮守府の床屋
後編
9.店の名前は……
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のと同じクリーチャーのイラストが看板を賑わせていた。そのため看板のセンスのよい配色やデザインが台無しになっていたのだ。

 まぁ、あの文を見る限り犯人は誰か分かってるし、この方が個性が出ていいかもな。

「球磨姉に甘いねーハル兄さんは」
「アホ」
「いやハル兄さんはいいだろうけどさ。この隣に店を構える予定の私は今から戦々恐々だよ。私の店にも余計な一言が加わりそう……」
「その頃には妖怪アホ毛女も落ち着いてるだろ」
「本当にそう思う?」
「思えん……」

 その後北上は『んじゃあとでねー』といい、なぜか相変わらずのジト目でパルパルと原チャリのエンジン音を周囲に轟かせながら、先に喫茶店に向かった。

 俺はというと、そのまま店に入って開店準備をすませ、客の第一号を待つ。第一号は決まっている。あの時の客第一号にして、足をかいてやる約束をしたあいつだ。

 カランカランというドアの音がなり、その第一号の客が入ってきた。俺は、嫁作の落書きだらけのシザーバッグを腰に巻き、第一号の客を出迎えた。

「いらっしゃいませ。……妖怪アホ毛女ぁあああああ!!!」
「来たクマ!!」
「今日こそはそのアホ毛!! 切らせてもらうからなぁぁああああ!!!」
「切れるものなら切ってみるがいいクマぁああああ!!!」

 店内に響き渡る、俺と球磨の叫び声。そして球磨の手に握られた霧吹きによって、過剰に店内に供給されていく湿気。少しだけお互い素直になったけど、あの時のまま変わらない俺たちの関係。この店の空気感は、あの時のままだ。

 確かに今のバーバーちょもらんま鎮守府には、開店後に店に来ては『一人前のレディー!!』と大騒ぎする二人組はもういない。暇を見つけては散髪代のソファを占拠してうとうと居眠りする奴もいなければ、夜に『やせーん!!!』と襲い掛かってくる奴も、一升瓶片手に『ヒャッハァァアアア!!!』と騒ぎ立てる奴も、もういない。

 それに、俺たちにはもうみんなの声は聞こえない。轟沈したかつての仲間や、俺とともにかけがえのない毎日を過ごした仲間たちの声は、もう俺の耳に届くことはない。

 みんなに会えない。そしてみんなの声も聞こえない。これは寂しいことなのかもしれない。あの鎮守府での思い出は、キラキラと輝く宝石のように今では感じられる。そんな日々に比べると、今のこの状況は寂しいものなのかもしれない。

 でもいい。あとは俺達が、みんなの分までこの平和な生活を送ることが出来ればそれでいいんだ。あのみんなが命と引き換えに守ってくれた平和な毎日を、残された俺たちがみんなの分まで堪能すれば、きっとそれでいいんだ。

「そのアホ毛だとドレス着た時ベール付けられんだろうが!!」
「そんなにベールが好きならハルがドレス着てベールつければいい
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