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鎮守府の床屋
後編
8.約束の行方
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うだ。

「でもさ。敵をかなり沈めたんだよ。おかげでなんとか生き延びたんだよねー」
「そっか。空母の役目を果たしたんだな隼鷹は」

 北上曰く、隼鷹が艦載機を空に放った時、かつての空母たちの姿が見えた気がしたそうだ。ひょっとすると、飛鷹や瑞鳳といったかつての仲間が力を貸したからこそ、通常ではありえない数の艦載機を召喚出来たのかも知れない……と北上は語っていた。

 ここまで話して、北上は押し黙った。おいどうした北上。

「ん?」
「ん? じゃないだろ。お前の姉ちゃんはどうした?」
「んー……」

 北上の顔が少し曇ったのが分かった。ほっぺたをぽりぽりとかき、目に涙を一杯ためて、言おうか言うまいか迷っている感じだった。

「んーとね……」
「……」
「最後まで……ハルとの約束を守ろうとしてたよ?」

 あのアホ……!!

「必死にね。『ハルの隣に帰るクマ!!』って言いながらね。頑張ってたよ?」

 この瞬間、俺の望みは絶たれたと思った。部屋の片隅に乱暴に置いたままの、あの時の荷物が目に入った。……いや正確には、荷物に紛れたシザーバッグが目に入った。球磨が描いた鎮守府みんなの似顔絵が、どんどん歪んで見えてきた。

「ちくしょ……ちくしょう……ッ」
「艦載機に狙われても、砲撃で狙われても、頑張ってたよ?」
「球磨……球磨ぁ……!!」
「必死に頑張ってたからさ……後で、球磨姉を怒らないであげて」
「ふざけんな怒るに決まってるだろ!! がんばっただけじゃ意味ないってお前ら軍人なら分かってるだろうが!! ちゃんと結果を出せよ!! 俺の元に戻れよ!! 隣にいろよ帰ってこいよ妖怪アホ毛女ァアア!!!」

 約束しただろうが……お前言っただろ『ずっと一緒にいたい』って。『ハルの隣で笑っていたい』って言っただろうが!! なんで約束を守らないんだ!! 散々っぱら俺のこと振り回しておいて無責任に俺だけ置いて行きやがって……

「んーとね……」

 北上がまだ何か言おうとしている。これ以上俺に報告することってなんだ?

「……まだ何かあるのかよ北上ぃ」
「えーと……怒らないで聞いて欲しいんだけど……」
「あ?」
「まー……確かに私の言い方もまずかったかもしれないけど……」

 なんだ? 今一話が見えてこない……北上は目に涙を一杯溜めながらも、赤いほっぺたを人差し指で困ったようにポリポリとかいていた。

「なんだよ……ハッキリ言えよ……」
「んーとさ……」

――ク……クマ……

 聞き覚えのある声が聞こえた。聞きたかった声が今、背後から聞こえた。俺は、背後を振り返った。そしてすぐに立ち上がり、そこに立っていた女を抱き寄せ、そのまま力いっぱいに抱きしめてやった。

 そこにいたのは、床
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