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鎮守府の床屋
後編
8.約束の行方
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うだよ。球磨姉じゃなくてごめんねー」

 北上の『球磨姉』という言葉に、心臓を鷲掴みされたかのような不快感が俺を襲った。

「……球磨はどうした?」

 北上は静かに茶をすすり、ほっと一息ついた後、お茶請けに手を伸ばした。

「うん。そのことも合わせて、あの時のみんなのことを知らせようと思って」
「そっか……あーいや、話さなくていい」
「まーそう言わずに聞いてよハル兄さん」
「うるせえ。兄さんって言うな。聞きたくない」

 今まで目を背けていた事実に正面から向き合わなきゃいけないのが怖い。他人事のように淡々と伝えてくるニュースからの情報じゃない。信頼できる北上の口から、あの日のことが語られることが怖くて仕方がない。

 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、北上は涼しい顔で、すらすらと話し始めた。

「提督はね。三式弾の雨で焼け死んだよ。最期に隼鷹の名前を叫んでた」

 うるせぇ。それ以上しゃべんな。

「加古は隼鷹を庇って蜂の巣になって沈んだ。古鷹と同じ目を怪我してたよ」

 黙れ北上。

「隼鷹は最期にたくさんの艦載機を召喚して、敵の大半を……」
「うるせえ黙れ妖怪嘘吐き女」

 気がついた時、俺は立ち上がっていた。そしてウソばかりつらつらと並べ立てるこの女の胸ぐらを掴み、北上の顔を自分の顔のそばまで引き寄せていた。

「さっきから黙って聞いてりゃウソばっかりつらつら吐きやがって。言っていい冗談と悪い冗談の区別もつかないのか!」
「ごめんねハル兄さん。でもウソじゃないんだ」

 鎮守府で過ごしていたときと同じ笑顔のまま、北上の目から涙がポロポロ流れた。

「……聞きたくないのはわかるけどさ」
「……」
「でもさ。ハルには知って欲しいんだよ。みんなの、あの日のことを。鎮守府のメンバーで……私の義理の兄さんのハルには……」
「……」

 分かってる。分かってるんだ。こいつがウソなんて言ってないことぐらい気付いてる。最初から信用してる。

 俺は、認めたくないんだ。あの鎮守府にいたみんなは生きていて、どこかで楽しく過ごしているって思い込みたいだけなんだ。だからニュースで『生存者は絶望的』って知らせを聞いても、『嘘だ』と思って頭から否定していた。頭では理解したつもりでも、心で反発していた。まったく受け入れなかったんだ。

「……すまん。北上」
「気にしないでいいよ。むしろね。そんな風に思ってくれてうれしいよ」
「そっか……ありがとう」
「どうする? 続き聞く?」
「頼む」
「分かった」

 俺に掴まれて少し乱れた胸ぐらを整え、北上は再び話の続きをしてくれた。隼鷹は、通常ではありえない数の艦載機を召喚して空に放った後、力尽きてフラフラになったところを砲撃され、沈んだそ
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