三十一話:理想の代償
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出したシールドを貫くには至らない。だが、ここで引いてしまえば後ろの者達が殺されてしまう。その一念が彼女に恐怖心を掻き立てた。恐怖心は時に危機から逃れる力となる。
相手を必ず倒すと決めた。無意識のうちにカートリッジを使用する。ナックルは爆発的な破壊力を得て男のシールドに罅を入れ、一気に砕き去る。わずかに目を見開く男の様子など見ることもせずそのまま吹き飛ばす。銃を手放し、大量の水飛沫をあげて見えなくなる男を確認することもなく人質の下に向かう。
「大丈夫ですか、しっかりしてください!」
人質に声をかけるが返事はない。さらに言えば人質は皆、不自然なまでに日の光など当たったこともないのかと思うほどに白い肌をしていた。まるで、つい先日までどこかに閉じ込められていたかのように。とにかく、意識の確認が先だと判断したスバルはその後も声をかけ続ける。
すると、そのかいあってか一人がうっすらと目を開ける。ホッとして、スバルはできる限りの笑顔を向けて一人に声をかける。
「よかっ―――」
刹那、視界が暗転する。いや、赤黒く染まる。頬に生温かくべっとりとした何かが付着する。何が起きたか分からずにスバルは惚ける。ただ自分がいつのまにか仰向けになっていることだけは分かった。だから、ベッドから起き上がるような自然さで起き上がってしまった。そこにあるものを見てしまった。
「―――え」
そこにあった物は何かの死体だった。内側から爆発したように原型など欠片も留めていない。焼けただれた腸が、血管から乱雑に引きちぎられた心臓が無造作に躯の横に転がっている。充満する鉄臭いにおいと唇にへばりつく何かの脂。剥き出しになった折れたあばら骨。
―――これはなんだ。
吐き気を催す間もなく、目の前に転がるものが何なのかを理解するまもなく、彼女は目を反らし、左側の二人のうちもう一人の人質に手を伸ばす。すると、それを引き金にするかのようにまた何かが破裂した。人の形をしたものが血の雨降らしながら爆発した。天井に、壁に、彼女の肌に鮮血が降り注ぐ。
理解した。否、無理矢理に理解させられた。これは死だ。どこまでも純粋で吐き気を催すような死だ。人質は何かによりその体を内側より壊されている。叫び声をあげる。また死んだ。目の前で誰かが死んだ。それだけはあってはならなかったのに。
「確かに、君の選択は間違いじゃない。だが、敢えて言わせてもらおう。今のは―――不正解だ」
底冷えするような声が響いてくる。夜の闇におびえる子供のように瞳を揺らし、スバルはそちらを振り返る。銃を構えた男が立っていた。何も映していない瞳でジッと、責めるようにこちらを見つめてきていた。
「僕を狙ったのは悪くないが何故完全に無力化しなか
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