三十一話:理想の代償
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死に聞こえないフリをして逃げた。一言たりとも責められても恨まれてもいないのに聞こえる声全てが怨嗟の声に聞こえてただ逃げ惑ったあの日を思い出す。
自分だけが生き残ってしまった。そんな自分が赦せないから、無意識に救おうと考えなかった。だが、そのデリケートな部分を土足で踏み荒らしに来る。
「自分一人救うことが、赦すことが出来ない人間に誰かが救えるはずもない」
「そ、そんなことは……」
「そんなことはないとでも言うのかい? じゃあ聞こうか。君は誰を救いたくて、どうやって救うつもりなんだい? 自分の救い方すら知らずに救えるというのか。いや、全ての人を救えば自分も救われると思っているのかな」
分からなかった。スバルは今までただ救いたかっただけだ。いや、救わなければならないと強迫観念に突き動かされていただけだ。誰を救いたいと思ったのかもわからない。否、明確に救いたいと思った対象などない。
どう救うのかも考えたことがなかった。ただ目の前の危険から自分が体を張って回避させていただけ。ただの自己満足だったのかもしれない。エゴを押し付けていたに過ぎないのかもしれない。そう考えると頭がグチャグチャになり視界が真っ白になりそうになる。そんな彼女に男はさらに追い打ちをかける様に語り掛ける。
「さあ、どうする。それでも君は全てを救うと言うか? それともどちらか片方を選ぶか?
答えろ―――スバル・ナカジマ」
「あ、あたしは……あたしは…ッ!」
働かない頭で必死に考える。どうすればいいのかを。どちらか片方など選べない、選べるはずがない。人の命なのだ。多いか少ないかで選別を行っていいはずがない。だが、選ばなければならない。より最善だと思う選択を。
どちらか片方を選べないのなら両方を選ぶしかない。しかし、その為には目の前の男をどうにかしなければならない。そう考えたところでスバルは男を一瞬のうちに叩き無力化するしかないと気づく。出来るかどうかは分からない。だが、やらなければ後がない。
無論、立場としても信条としても男を殺すような真似はしない。あくまでも捕縛するために倒す。この時冷静になることが出来ていれば他にも考え付くことが出来たかもしれない。しかしながら彼女はこの選択を選んでしまった。後のない選択を。
「どっちも見捨てられないッ!」
「なるほど、確かにそうだ。僕を殺せば犠牲は一人で済む、その選択は間違いじゃない」
―――猪突猛進。
その言葉を思わせるような直線的な突進。スバルの出した答え、男を排除してどちらも救うという選択。確かにそれならば両方を救うことが出来る。原因そのものを取り除いてしまえば誰も死ぬ必要はないのだから。
間違いではない。しかしながら余りにも甘い考えだろう。未熟なその腕では男の創り
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