三十一話:理想の代償
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「正義の味方の……成れの果て?」
「そうだ。それ以外に適切な表現もない。まあ、僕のことは良い。今は君の選択の時だ」
選べ。二人を切り捨てるか、四人を切り捨てるか。どちらを選んだところで犠牲が無くなるわけでもない。それでもなお、選ばなければならない。二つを天秤に乗せ、傾いた方を切り捨てるという単純作業をスバル・ナカジマはしなければならない。
本人の意思など関係なく、不条理に、強制的に、どちらか片方を選ばなければならない。だが、そんなことを認められるはずもない。突如として誰かの命を選別しろなどと、天秤の測り手となれとなど受け入れられるはずもない。
だからこそ、彼女は反逆の声を声高に上げる。
「ふざけないで、そんなの絶対におかしいよ! どちらか片方を選ぶなんて間違ってる!」
「そう思いたければ思えばいい。だが、目の前の現実を受け入れることも時には必要だよ」
「そんなの知らない! 正義の味方なら全てを救ってみせるっ!!」
全てを救ってみせる。その言葉に男は嘲り笑うように鼻を鳴らす。かつてはそれは絶対にできないと思っていた。だが、本物の正義の味方が全てを救う様を見てしまった。そう、どちらも救うことが出来るのだ。
不可能ではなかった。可能だった。だが、同時に本物の正義の味方ですら現実の壁に阻まれていることがある。可能という言葉は不可能という言葉ではないが、また、絶対という言葉でもないのだ。
「全てを救うか……都合の良い理想論だよ、それは。だが、否定はしない。それともう一つ質問をいいかい?」
「……なに?」
「その全ての中に―――正義の味方は含まれているのかい?」
男の問いかけにスバルは彼が何を言っているのか一瞬理解が及ばなくなる。当然、全ての中に自分は……。そこまで考えて愕然とする。自分を救うことなど欠片たりとも考えていなかった。否、そもそも全ての中に自分というものを含むという概念がなかった。
こうして問われて初めて直面する自分の中の歪み。彼女は自分以外の者を救うことに傾倒しすぎており、自分を救うということを考えていなかった。だが、それでもいいと、自分が犠牲になることで何かが救えるのならそれでいいではないかとも考える。しかし、そんな考えは男が容赦なく砕き去る。
「もし、君が自分を救う勘定に入れていないなら―――君には誰も救えないよ」
どこか諭すような、憐れむような瞳でそう告げられスバルは心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。そんなことはないと叫び返したいが震えて声が出ない。まるで、ただ逃げるだけで何もできなかった無力なあの頃に戻ったかのような錯覚を覚える。
燃え盛る業火の中、この世に地獄を再現したかのような光景の中を歩いた。助けてくれと救いを求める声を必
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