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鎮守府の床屋
後編
7.最後の客
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ように気をつけながら耳掃除を続けた。

「……ハル?」
「んー?」
「泣いてるクマ?」
「アホ。ローションこぼしたんだよ」

 両耳が終わり、ローションでキレイにしたところで終わり。最後のお客様。お疲れさまでしたー。

「クマ……」
「終わったぞー」
「クマっ」

 球磨は俺の膝から身体を起こし、そのまま俺の右隣に座った。こいつはいつも、こうやって俺の隣にいてくれた。

「ハル」
「ん?」

 球磨が左手で俺の右手を強く握った。その手は少しカタカタと震えているように感じた。

「ちょっとだけ……抱きついていいクマ?」
「……俺も、球磨を抱きしめていいか?」
「うん」

 球磨の返事が終わる前に、球磨の身体を抱き寄せて思いっきりキツく抱きしめた。

「……痛いクマ」
「……だったら離れろよ」
「……ヤだクマ」

 球磨もまた、俺の首に手を回し、おれを思いっきり抱き寄せていた。

「……いてぇ」
「だったら離してもいいクマ?」
「……ヤだ」
「わがままな床屋だクマ」
「うるせぇ」

 少しだけ手の力を抜き、球磨の身体を離す。球磨も同じタイミングで力を抜き、ほんの少しだけ離れた。その後、今度は互いに顔を近づけ、唇を静かに触れ合わせた。

「ん……」

 しばらくそうした後、どちらからともなく唇を離した俺達は、また力を込めて互いの身体を抱きしめる。唇の余韻はしばらく残った後、粉砂糖のようにひんやりと消えた。

「……突然なんてことしてくれるクマ」
「うるせー。お前だって受け入れた癖に」
「クマっ……」
「……球磨」
「クマ?」
「俺はお前が好きだ」
「球磨も……ハルが好きだクマ。ハルとずっと一緒にいたいクマ」
「俺もだ。……だから絶対に俺の隣に戻ってこい」
「うん。必ず戻るクマ」
「戻ったら、好きなだけ霧吹きを吹きかけろ。足の裏もかいてやる。……好きなだけキスしてやるから」
「うん」

 そうしてしばらくの間、互いに相手の感触を身体に刻み込んだ後、俺達は身体を離した。長ソファから立ち上がり、俺達は手を繋いだまま、入り口のドアを開ける。ドアから離れたところには、すでに鎮守府の残りのメンバーが球磨を待っていた。

「球磨姉、散髪終わった?」

 みんなの中でただ一人、入り口のそばで待っていた北上が、俺達のそばまで来た。北上は両手両足に魚雷発射管を装着していた。すでに敵艦隊が近くまで来ているのかもしれない。

「うん。終わったクマ」

 球磨が俺の手を離し、俺と向かい合った。その顔には、さっきのような不安はなく、いつもの妖怪アホ毛女と変わらない笑顔があった。

「ハル、ありがとクマ。もうすぐここは大変なことになるから、ハルも早く逃げるクマよ?
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