暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府の床屋
後編
7.最後の客
[3/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
を元に、周囲の索敵をしているようだ。

「敵はどうです? 来てるんですか?」
「まだ到着まで時間はあるが、隼鷹がかなりの数の艦隊を確認した。こっちにまっすぐ向かってきているあたり、ここに来るのは確実だろう」
「……やっぱり、ここを狙ってるんすか」
「恐らくは。ビス子が相当に足止めしてくれたようだ」
「ビス子……」

 提督さんの話によると、恐らく前回の合同作戦の報復だろうという話だった。この鎮守府は、前回の合同夜戦作戦に参加した鎮守府の中でも、比較的作戦海域に近い。もしあの作戦の報復に出るとすれば、戦力も乏しく、地理的にも最も近いこの鎮守府を自分も狙う……と提督さんは言っていた。

「SOSは送らないんですか」
「送った。援軍が到着するまで鎮守府を死守し、何としても持ちこたえろとの命令だ」
「いつ到着するんすかその援軍は……」
「速やかに出撃準備に入る……だそうだ」
「なんでしょうか……説得力、ないっすね」
「俺もそう思うよ」

 俺はもちろん、提督さんも笑わない。以前に提督さんから聞いた話だと、この鎮守府は、軍からしてみれば優先度の低い鎮守府だったはず……だから資材も回してもらえず、経費もほとんど認められず、こんなにボロボロになるまで追い込まれても、何も援助がない状態だったはずた。

 だとすれば、提督さんが言う通り、その援軍も期待できないのではないだろうか……。

「ハル」
「はい」
「この鎮守府の責任者として、キミに命令する」
「はい」

 次のセリフは、俺が今まで接してきた、朗らかで人当たりのいい、優しい提督さんとは思えないほどの、厳しい口調だった。

「灯台のそばに小舟を準備させた。それに乗って市街地に行け。井上さんが待っている。そしてそのままこの鎮守府から出て行け」
「はい?」
「聞こえなかったか? 出て行け。そして顔を見せるな」

 ……いやだ。俺は最期までここでみんなと一緒にいたい。

「前にも言ったはずです。却下です」
「ダメだ。出て行け。復唱しろ」
「断ります。おれは軍人じゃない。あんたの命令に従う義務はない」
「軍人でなくともこの鎮守府のメンバーである以上、俺の命令には従う義務がある。さっさと復唱しろ。そしたら出て行け」

 ふざけんな提督さん。そんなもん却下だ。どんな状況であれ、出て行くという選択肢はない。おれは最期までこの鎮守府にいる。

「んなもん糞食らえだ。復唱だ? ふざけんな。俺は軍人じゃない。じい様の代から床屋だ。床屋の俺に、あんたの命令を聞く義理はない」
「……ここは戦場になる。市街地にも避難勧告を出した。今市街地は避難が始まってるはずだ。お前も一緒に避難しろハル」
「お断りです。ここは俺の家だ。俺の仲間がいる。家族と言える奴らがいる。提
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ