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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十九話  併合への歩み
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した。幸いこちらに注意を払っている人間は居ない。小声で“耳を貸せ”と言うとクレメンツが訝しげな表情をしたが顔を寄せてきた。

「驚くなよ、司令長官を政府閣僚にという話が有るらしい」
囁くとクレメンツが目を瞠った。目を左右に動かして周囲を見ている。安心しろ、誰も気付いていない。
「本当か?」
「先日、ケスラー提督から聞いた。あくまでらしいという話の様だがな」
クレメンツが唸り声を挙げた。

「出所はリヒテンラーデ侯の様だな。侯も御高齢、今の内にしっかりとした後継者を、そういう事らしい」
「なるほど。これから三十年かけて新帝国を創る、そのためか……。しかし今でも変わるまい、わざわざ軍人から政治家への転身というのが分からんな」
クレメンツが首を傾げた。
「自由惑星同盟では軍人が政治に携わるという事は無い。その辺りも関係が有るのではないかな」
クレメンツがまた“なるほど”と言って頷いた。

「おそらく軍部、政府の上層部で揉めているのではないかと思っている。だから新しい体制が決まらない」
「それは分かるが簡単に決まる問題でもあるまい。長引くのは良くないぞ。現状ではガンダルヴァにルッツとワーレンが居るがあの二人に同盟領の全てを任せたままというわけにはいかんだろう。負担が大きすぎる」
クレメンツの言う通りだ。現状はあくまで一時的なもの。常態化は拙い。

「ガイエスブルクの件もある、あれを如何するのか」
「フェザーンに持って行くという話が有るようだが……」
「俺もその話は聞いた。もう一つ要塞を造るという話もな」
もう一つ? 如何いう事だ? 疑問に思っているとクレメンツが“どうやら知らないらしいな”と言って話し出した。

「フェザーン回廊の帝国側、同盟側の出口にそれぞれ要塞を置こうという事だ。だがそこまでやる必要が有るのかという意見も出ているらしい」
「なるほど。一つはガイエスブルク、もう一つを新しく造るという事か。新たな帝都の安全保障を考えるならおかしな話ではないな」
「それに戦争が無くなったからな。軍事費は当然削減されるだろう。軍需産業が困らん様にという事も有るらしい」

クレメンツが小声で教えてくれた。なるほど、軍需産業救済か。平和による不景気、妙な話だ。先の遠征ではかなり儲けた筈だがそれだけにいきなりの不景気には耐えられんか。待て、フェザーン遷都が有るのだ。今後はフェザーンの企業がかなり食い込んでくるな。それも考えての事か。

「勝ったとはいえ問題山積みだな」
私が言うとクレメンツが肩を竦めた。
「どんな時でも問題は無くならんよ。それに負けるよりはましだろう」
「まあそうだな」
確かに負けるよりはましだ。私もクレメンツも悩みながらも美味い酒が飲めるのだから。



宇宙暦 799年 10月 1日
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