外伝 マリネッタの物語
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用を20ヴァリスぽっちで取り返そうって、それ都合よすぎな〜〜い?」
店主が彼女の後ろに目をやると、主婦たちは非常に冷たい目線を自分に注いでいる。このままでは「気に入らないから」という理由で売り上げが伸び悩み、奥さんに叩きのめされる未来しか見えてこない。
マリネッタはこれを狙っていたのだ。周囲の全員を味方につけ、全員の代弁者となることで交渉を優位に運べるこの状況を。ハメられた、と店主は怒りに震えたが、時すでに遅しである。
「このガキ、足元見やがって……!!」
「それでそれで?リットルお・い・く・ら?」
顔だけは可愛らしいのに、完全に悪魔の微笑み。
店主はがっくりとうなだれ、消え入るような声で宣言する。
「……今日は大特価の200ヴァリスでいい。今日だけ……今日だけだからなっ!!」
「やったぁ!おじさん大好きっ♪」
「畜生ぉぉぉぉぉーーーーーーーーーッ!!!」
店主の遠吠えと勝ち誇った少女の歓声が同時に響き渡った。
「さっすがマリちゃん交渉上手!はい、これお礼の干し肉!」
「余ってたレタス持って行きなさい!」
「これ、トマト!美味しいから孤児の皆で分けな!」
「今日の分の牛乳はおばちゃん達が奢ってあげるよ!」
「わぁい!!ありがとう皆!うちのちび達もきっと喜ぶよ!」
お礼の品を麻袋に詰めながら、マリネッタは人懐こい笑顔を浮かべた。
これが子供たちの面倒を見るマリネッタの日常だ。
口が上手く交渉上手なマリネッタは、この近辺では交渉上手として名が通っている。曰く、「貧民街の子とは思えないぐらいしっかりした子」だ。数年前にこの周辺に現れた彼女は、当時のストリートチルドレンをまとめ上げて悪さをしないように見張りつつも面倒を見ている。
自らも孤児であるにも拘らず孤児の世話をするしっかり者の彼女は、決してタダで食べ物を貰おうなどと物乞いはしない。泥棒も悪戯ももちろんしないし、面倒を見ている子供にもさせない。その誠実さと人懐こさがこの人脈を呼んでいた。
貧民街の孤児たちを養うのも楽ではない。衣服代金、薬の代金、勉強道具の代金に将来働くときの為の蓄え。そして最大の問題が食費だ。アズから定期的に結構高額なお小遣いを受け取っているとはいえ、食欲旺盛なちびっ子たちの胃袋は自重という物を知らないので生活には全く余裕がない。
「さてと、野菜と肉が確保できたところで次はパンね!パン耳貰うのにも限界があるし、どこかにいい話が転がってないか探すとしますかっ!」
袋を抱えて飛び出したマリネッタの手には、細い銀色の鎖がいつも巻き付けられている。
それは、マリネッタがお金より大切にしている大切で、彼女の持つ唯一のお洒落だった。
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