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鎮守府の床屋
後編
6.カウントダウン
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!! 隼鷹と一緒に月を見るのが楽しいんでしょ提督さん!!! 戻れ!! 戻れみんな!!!」

 ついに川内の身体が海の中に沈み、姿を消した。ついでビス子、加古、隼鷹、提督さんが沈み……

「戻れ北上!! 今ならまだ間に合う!! 球磨!! 戻ってこい球磨!!! 返事しろ!! 俺の隣に戻ってこい!!! 俺のそばにいろ!!!」

 もはや海面から首だけ出した球磨が立ち止まり、少しだけ振り向いた。

「ハル……ごめん。約束守れなかったクマ」

………………

…………

……

「……ル……起き……だいじょ……クマ? おき……マ」

 妖怪アホ毛女の名にふさわしい感情の篭った声が聞こえ、俺の重い瞼は無理矢理に開かれた。テーブルに伏せて寝てしまっていたらしい俺の頭はぼんやりしていて、頭に霧がかかったように意識がハッキリしなかった。

「ん……んん……球磨か?」
「大丈夫クマ? 汗びっしょりだクマ」
「お、おう……」

 確かに顔から汗をかいていた。ちくしょう。妙な夢を見たせいだ。あんな轟沈を予感したような不吉な夢をこんな時に見せやがって……。

 球磨は俺の異変で目が覚め、俺を揺さぶって起こそうとしていたらしい。何でも息苦しそうにうなりながら、舌っ足らずな滑舌でみんなの名を呼んでいたそうだ。

「なんか怖い夢でもみたクマ?」
「あ、……ぁあ、大丈夫。なんでもない」

 言えん。みんなが海に沈んでいく夢でうなされただなんて言えん。ついでに言うと、こいつにだけは心配をかけられん。こいつは皆の前では気を張るが、俺の前では気を緩める。ならば気を緩める相手の俺は、こいつに弱いところを見せるわけには行かない。

 しかも冷静に考えると、これは夢でしかない。だから心配する必要もないし、妙に怖がる必要も何もないわけで。

 ……あ、だけど一個だけ疑問がある。

「球磨」
「クマ?」
「お前……俺となんか約束してたっけ?」
「約束?」
「うん」

 夢の中で球磨は『約束は守れなかった』と言っていた。俺にそんな覚えはないが……

「んー……特に何もしてないクマね」
「だよな……」
「どうかしたクマ?」
「いや……」

 なんださっきの夢は……不吉過ぎる。今までいろんな悪夢を見てきたが、あんなに不快で気持ち悪い夢は初めて見た。ただの夢だ。夢なんだこれは。

――外に出ろ

 不意に、木曾……キソーの声が聞こえた。

「キソー?」
「お前も聞こえたのか?」
「? ハルも聞こえたクマ?」

 今の声がこの妖怪アホ毛女にも聞こえたのか。……いや、今までなんとなくそう感じる瞬間はあった。こいつは俺に言わないだけで、俺と同じように、かつて沈んでいった自分の仲間の声が聞こえていたんだ。
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