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鎮守府の床屋
後編
4.返事をしろ(後)
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数年、提督がどれだけの相手と戦って、どれだけの仲間を失ってきたか……」
「……隼鷹は、誰か身内は轟沈したのか?」
「姉の飛鷹と、一番しんどい時を一緒にくぐり抜けた空母のみんな……ていえばいいかなぁ」

 隼鷹はそういい、幾分艶っぽい眼差しで、手に取ったグラスの中の透明な日本酒を見つめた。その目には懐かしさと、いくばくかの悲しみがこもっていた。

「なぁ隼鷹、もう一つ聞きたい」
「なに?」
「加古は連装砲を古鷹から受け継いでた。川内は探照灯、ビス子は暁ちゃんの帽子……」
「だねぇ」
「お前は何か形見を受け継いだのか?」
「持ってるよ。見る?」
「よかったら」

 隼鷹はグラスを置き、自身の懐から大きな巻物のようなものを取り出してそれを広げた。開いた巻物には飛行甲板のような絵柄が描かれていて、それが艦娘独特の道具であることが分かった。

 隼鷹がぼそぼそと何か呪文のようにも聞こえる言葉を唱えた。その巻物から人の形をした紙切れが4枚ほど浮かび上がり、それらが室内に飛び放たれる。放たれた紙は次第に飛行機へと姿を変え、やがて俺と隼鷹の目の前に着陸した。

「巻物は元々飛鷹のものさ。飛鷹はあたしと同じ陰陽術で艦載機を飛ばしてたから、そのままあたしが使わせてもらってる」

「こ、これが空母の飛行機ってやつか……びっくりした……」
「艦載機。んでこの艦載機もね。沈んだみんなが愛用してた艦載機なんだ。瑞鳳の天山、千歳と千代田の零式艦戦たち、瑞鶴の彗星……みんなから一機ずつ。空母のみんなは他にもいたけど、艦載機を受け継いだのは、そんなとこかな」
「そっか……」
「別にね。みんなのことを忘れたくないとか、みんなとずっと一緒にいたいとかじゃないんだ」
「……」
「ただ、みんなのことを背負って、みんなと戦いたい……そしてみんなが成し得なかったことを、みんなの艦載機を使って、あたしが代わりに成し遂げたい。他のみんなはどういうつもりなのかは知らないけど、あたしはそう思って、みんなの艦載機を使わせてもらってる」

 普段こそ『ヒャッハァァアアア!!!』とにぎやかでうるさい隼鷹だが、こういった側面もあったのかと驚かざるを得ない。でも、隼鷹がみんなと成し遂げたいことってなんだろう……

「隼鷹が成し遂げたいことって何だよ?」
「んー……そんな大げさなことじゃないよ。ただ、生き残りたいのさ。生きて平和な世界で人生を楽しんでみたいんだよ」
「……」
「幸いあたしは、惚れた男と結ばれる事が出来た。……なら、戦いのその先の人生を惚れた男と歩きたいじゃん。亡くなったみんなの分まで……戦いだけのまま逝ったみんなの分まで、普通の人生を堪能したいじゃん。だからさ……」

 酔いが回って、さっきよりさらに赤くなった顔で隼鷹がそう言った。夢や希望
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