第三話 変わらない声その五
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「実はあるのよ」
「ひょっとしてそれって」
「八条学園はそうしたお話も多いでしょ」
「あちこちに幽霊とか妖怪のお話多いね」
「私もあの学園の卒業生だし病院でもね」
「病院もそうしたお話多いっていうね」
「実際にあるわよ、夜勤の時に見たのよ」
その幽霊をというのだ。
「お年寄りの患者さんがすうっと壁から出て」
「それでその患者さんが」
「亡くなったのよ、わかるわね」
「うん、それこそまさにね」
「幽霊ね」
「僕もそう思ったよ」
優花も手を止めてだ、姉に答えた。
「幽霊だね」
「この目でも見たし」
「魂がなんだ」
「身体を動かしている、幽霊は実は簡単なものなのよ」
「簡単なんだ」
「身体があるかないかだけよ」
それだけの違いだというのだ。
「身体があるから人でないと幽霊なのよ、けれどね」
「幽霊もだね」
「人間なのよ」
「身体があるかないかだけの違いだから」
「そう、だから人間は魂のもので」
身体、生物学上のことではなくというのだ。
「魂が化けものならね」
「身体が人間でも」
「化けものになるのよ」
「そうなんだね」
「だから優花は優花よ」
その身体のことは重要ではないというのだ。
「優花の心が優花だからね」
「そういうことなんだ」
「少なくとも私はそう思ってるわ」
ここまで言ってだ、優子は微笑んだ。
「心なのよ、人は」
「それで決まるんだね」
「身体は器に過ぎないのよ」
「それで姉さんはその器を見ているんだね」
「そうなるわね、医者はそうなのよ」
「人の器を見て器を治して」
「身体に留まっていられる様にしているのよ」
魂、即ち人間をというのだ。
「そうしているのよ」
「そうなんだね」
「そうしたものに過ぎないのよ」
自嘲めいたものも入った、ここで。
「所詮はね」
「所詮はなんだ」
「少しも偉くないよ」
「人を助けられるのに」
「身体だけをね」
「それだけをなんだ」
「そう、身体っていう器だけよ」
医者、そして医学がどうにか出来るのはというのだ。
「それだけだから」
「偉くないんだ」
「何一つとしてね」
それこそという口調での言葉だった。
「うちの病院ではないけれど医学界ではふんぞり返った人も多いわ」
「ああ、院長先生の診察?」
「大きな病院ではあるでしょ」
「聞くよ、僕も」
「そうしたことは本当にあるのよ」
白い巨塔というドラマやブラックジャックで描かれている、日本の医学界は多分に権威主義であり腐敗も昔から酷いという。
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