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真田十勇士
巻ノ三十二 会見その十一

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「やるぞ」
「間もなく」
「そうしますな」
「うむ、それまでは待て」
 強い言葉で言うのだった。
「軽率なことはするな」
「わかりました」
「それでは今は」
「動かざること山の如しじゃ」
 信之はここでこうも言ったのだった、武田家の旗に書かれていた言葉の一部だがここでこの言葉を出したのである。
「よいな」
「戦は時としてですな」
「そうすることも大事ですな」
「そうじゃ、今は動くな」
 こうくれぐれもと言うのだった。
「決してな」
「そして時が来れば」
「火の様に攻める」
「そういうことですな」
「そうじゃ、今は山となり林となれ」
 こうも言うのだった。
「静かにしておれ」
「静かなること林の如し」
「その様にですな」
「うむ、静かにじゃ」
 まさにと言うノだった。
「そして時が来れば」
「風の様に速く」
「そして火の様にですな」
「そうして攻めよ、よいな」
 こう言ってだ、そのうえでだった。
 信之は今は兵達を動かさなかった、そしてそれは幸村もだった。
 赤い具足と陣羽織に身を包み下にいる徳川の軍勢を物陰から見ている、そのうえで後ろに控える十人を中心とした家臣達に言った。
「さて、ではな」
「今は待って」
「そしてですな」
「敵が石垣に張り付く」
「まさにその時に」
「一気に攻める、そしてそのままの勢いでな」
 家臣達にさらに言っていく。
「城から追い出しな」
「そして、ですな」
「敵を追う」
「そうしますな」
「いや、そこからは父上の策がある」
 すぐに追うかどうかについてはだ、幸村はこう答えた。
「よいな」
「左様ですか」
「大殿はそこからもお考えですか」
「そうなのですか」
「うむ、だからその時も迂闊には動かぬ様にな」 
 こう言うのだった、そして。
 今は敵の動きを見守っていた、その敵達はというと。
 鳥居の采配の下石垣に着こうとしていた、その手で石垣に張り付き登ろうとしていた。その手が張り付いた時にだった。
 信之も幸村もだ、すくっと立ち上がり采配を振るった。
「よし、今じゃ!」
「攻めよ!」
「一気に攻めよ!」
「まずは鉄砲を撃て!」
 こう命じるのだった。
「それから弓矢、石に丸太も投げよ」
「休むことなく攻めよ」
「さあ、攻めて攻めてじゃ」
「敵を城から追い出すのじゃ」
 兵達は二人の言葉に頷いてだ、すぐにだった。
 城の壁の穴から鉄砲を出して一斉に放ちだ、別の穴からだった。
 弓矢も放った、壁の上から石も丸太も投げた。
 次から次に攻めてだ、石垣によじ登ろうとする徳川家の兵達にだった。
 全てを叩きつけた、鉄砲の轟音が鳴ってだった。
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