暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府の床屋
後編
1.ひとそれぞれ
[8/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
磨の声が涙目になったのが分かった。俺の太ももに涙がポロポロ落ちたのが、じんわりと伝わってきた。

「みんなを支える役目は終わった。だからそろそろ、お前も肩の力抜いていいぞ」
「今……ハル以外は誰もいないクマ?」
「誰もいない。店ももう閉めた。誰も来ないから安心しろ」
「ひぐっ……いいクマ? もう……いいクマ?」
「いいよ。もう泣いていい」
「ひぐっ……」

 球磨は俺に顔を見せないように、俺の太ももに自身の顔を押し付けるように一度うつぶせになって、そのままこっちを向いた。その後俺の腰にしがみつくように手を回して、顔を俺の身体に押し付けた。球磨が顔を押し付けた部分の服の生地がじんわりと暖かく濡れ、涙がとどまることなく流れていることを感じた。

「暁……いつもみたいに……ひぐっ……帰ってくると思ってたクマ……」
「だな」
「みんなが落ち込んでたから……ここで球磨も落ち込んだらいけないと思って……ひぐっ……ずっと我慢してたクマ」
「分かってたよ。お前が無理してたのは」
「多摩にも言われたクマ……“球磨姉は無理しすぎてて心配”って言われたクマ。ひぐっ……」

 多摩って確か、昔に沈んだ球磨の妹だったな。こいつは昔っから、こんなことがある度に妹に心配かけるほどがんばってたのか……それとも古鷹みたいに、球磨のことが心配で姿を見せたのだろうか。どちらにせよ、姉思いの妹であることに変わりはない。

「いい妹じゃんか」
「でも沈んだクマ……みんな沈んでいくクマ……ひぐっ……」
「でもお前が守ってくれてたおかげで、ここんとこずっとみんな無事だろ?」
「もうヤだクマ……ひぐっ……沈むのはヤだクマ……」
「だな。ヤだな」
「暁に帰ってきて欲しいクマ……ひぐっ……みんなに帰ってきて欲しい……クマ……ひぐっ」
「そうだな……帰ってきてほしいな」

 俺にしがみつく球磨の手に、さらに力がこもった。俺は球磨に抵抗することなく、その頭を少しだけ乱暴に撫でてやった。いつもは天高くそびえるアホ毛も、今日ばかりは俺の手の動きに逆らうことなくなびいていた。

「……なでなでするなクマ……ひぐっ」
「こういう時は素直に撫でられとけ妖怪ぬいぐるみ女」
「ひぐっ……球磨はぬいぐるみじゃないクマっ」

 球磨はこの日、今まで我慢していた反動もあって一晩中俺にしがみついて泣き続け、俺はそんな球磨の頭を一晩中撫で続けていた。こいつはずっと一人で懸命に強がっていたんだ。みんなが悲しみに打ちひしがれている間、たった一人で自分に鞭打ってがんばっていたんだ。少しぐらいはいいだろう。これぐらいのわがままなら聞いてやる。

「ハル……ごめん」
「?」
「迷惑かけてるクマ……」
「お前が俺に迷惑かけない時なんてあったか? 今更だ今更」
「黙れクマぁ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ