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魔法少女リリカルなのは 〜最強のお人好しと黒き羽〜
第一話 小伊坂 黒鐘のプロローグ
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も循環器ありの呼吸で、脳も動いている。

 だから俺は姉さんの両手を握り、手のひらをくすぐってみたり擦ってみたりして刺激を与える。

 刺激と言うのは、脳に大きな影響を与えるのだという。

 目を覚ますきっかけになることだってあるらしい。

 だから俺は声をかけるし、触れたりもする。

 家族のスキンシップとしてはどこか不思議なものを感じるけど、これが今の日常。

 5年、姉さんは目を覚まさず、歳を取らず、成長もしない。

 たしか五年前の姉さんの年齢は10歳だから……。

「俺、姉さんと同い年になったよ。 しかも姉さんの誕生日が過ぎたから、今は俺が姉さんの兄貴だよ。 なんか、変だよな」

 産まれた日から辿れば姉。

 肉体年齢と、生きた時間を辿れば妹。

 10歳になったときにそのことに気づいて、俺は本当に驚いた。

 姉さんより年上になるなんて、本当に変な話しだ。

 ホント、変だよ。

 おかしい……馬鹿馬鹿しい。

「……姉さん、早く起きてよ」

 気づけば瞳から、雫が落ちる。

 頬を伝い、落ちたそれは姉さんの右手に落ちた。

 きっと姉さんは、俺が泣いていることにすら気づけないだろう。

 まぁ、恥ずかしくて見られたくもないんだけどさ。

 女々しいって言われるかもしれない。

 だけど、俺はまだこの涙を止める術を知らない。

 こうして姉さんの前に来れば、絶対に涙を流してしまう。

 5年間、ずっと続いている症状だ。

「……俺、これから沢山会いに来るから」

 必ず会いに来るから。

「学校に通うから、勉強も頑張る」

 友達も作ってみせる。

「絶対に、楽しく過ごすから」

 姉さんが見ても安心できるような日々を過ごしてみせる。

 だから――――

「だから、帰ってきて。 姉さんも、同じ日々を過ごそう!」

 それは俺が5年間、ずっと想い続けてきた願い。

 同じ時間を、同じように過ごす。

 家族として一緒に。

 そんな小さな希望を、小さな願いを言葉にして、俺と姉さんの時間はゆっくりと過ぎていく。

 何度も願った小さな日常。

 それが訪れるのはいつになるのだろう。

 もしかしたら、一生来ないのかもしれない。

 そんな不安と焦り、恐怖は呪いのように付きまとう。

 それでも、願わずにはいられない。

 当たり前の日常を。

 平和な、日常を。



 だけど――――その日の夜、俺は魔法に再会する。
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