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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 3
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アリア信仰流の挨拶か、左手を自身の胸元に添えて腰を折るアーレスト。

「……ミートリッテ、です」

 ネアウィック村で『ミートリッテ』の名前を持っている者は一人だけ。
 裏稼業の都合上、他人にほいほいと教えたくはないが。
 女性達の手前、こうも礼儀正しくされては無下にもできない。

「ミートリッテさんですね。ありがとうございます。貴女に、女神アリアの祝福が舞い降りますように。……またおいでください。お待ちしています」

 別れの句だ。
 やっと女衆の無言攻撃から解放されると、心からの喜びが笑顔に変わる。

「ありがとうございます。失礼しました」

 嬉しそうなミートリッテに、ほんの少し目を丸くする神父。

「…………?」

 何か変だっただろうか? と思う前に。
 表情を戻したアーレストが扉の取っ手を掴んで、外への道を開いた。

「お気を付けて」

 扉がきっちり閉まるまで見送りを受けたミートリッテは、疑問符を背負い首をひねりながらも、何食わぬ顔で十数歩分外門へ近付き……
 突然 ハッ! と顔を上げ、教会の裏手に向かって走り出した。
 芝生を蹴る音は、風に揺れる木の葉達が消してくれる。
 誰かに見つかる前に、敷地内の様子と崖の高さを把握しておかなければ。

「よくよく考えてみたら、これってすっごく良い機会じゃない? まさか、ネアウィック村で、とは思わなかったけど!」

 全身を刺す物騒な視線が無くなり、呼吸と気分が楽になったおかげか。
 外へ出た途端、ずっと前から試してみたかったことを思い出したのだ。

 それは、怪盗になりたての頃。
 観光を通して舞台劇の存在を知ったミートリッテが、家へ帰りハウィスに劇話の詳細を尋ねると、彼女は何かを思い出したかのように、ふふっ! と小さく笑って、こう答えた。


『大半は、崖から落ちて終わるわね』


 犯罪者を追い詰めても落ちる。
 愛し合う男女二人組を追いかけても落ちる。
 たとえ幻想世界の住民であっても、最終的にはやっぱり落ちる。
 とにかく落ちて終わる、劇話の舞台。
 それが役者の聖地、『崖』。

 劇話の説明としてはなんだかいろいろ端折(はしょ)られた気もするが。
 そこに到るまでの経緯や、物語の結末よりも。
 無謀としか思えない、その危険な行為ただ一点が。
 幼いミートリッテの心を、異常なまでに魅了した。

 断崖絶壁から、海中への自主落下。
 通称『崖ドボーン』。

 村民として実行すれば確実に怒られ、心配をかけてしまう。
 でも、シャムロックとしてなら?

 怪盗の仕事場は常に、ネアウィック村より内陸部。
 崖はあっても、下は地面か、良くて河川だった。
 だが、ここは海。どう見ても、水
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