寄り添う蓮の白さに
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うべきか黙っていられない人が、一人。
「馬岱」
赤い髪を揺らして彼女――白蓮は、項垂れて目に涙を溜めている蒲公英に向けて穏やかな声を紡ぐ。
「同じく馬を駆って大陸の防衛を生業としてきたモノとして馬騰殿のキモチは痛い程分かるよ」
幽州という辺境の大地を、馬騰達のように守ってきた白蓮。状況的に見ても似ていると言えよう。
たった一つの勢力、誰も共に戦ってくれるモノはおらず、強大な敵からの侵攻は避けられない。
救援を求めても跳ね除けられ、その現実に恐怖しながらも戦うことを決めたのが白蓮だった。
まるであの時の焼き増し。蒲公英は曹操軍との交渉に向かった牡丹と同じで、抗うことを決めている馬騰はあの時の白蓮と同じであろう。
故に白蓮には蒲公英が牡丹にダブって見える。
ズキリと痛む胸をたおやかに抑えて、白蓮は蒲公英に近付いて行った。
涙に濡れる顔を上げた蒲公英の目をそっと拭いて、白蓮は優しく抱き締めた。
「悔しいよな……哀しいよな……苦しいよな……救いたいよな?
分かってるよ。お前達が大好きな家を壊されたくないって気持ちはさ。
一緒に草原を駆け抜けた場所も、おいしいお茶を飲んで温まる店も、皆で笑い合った街の中だって、大切な大切な宝物。それが失くされちゃうかもしれないことが怖くて、悲しくて、辛いんだよな。
その家を守る為に……私達に出来ることは少ないけど、手助けをさせてくれ」
耳元で紡がれる優しい声。蒲公英は甘えるように白蓮の胸に顔を埋めた。
一緒の想いを感じてくれる人の存在が嬉しくて、一緒に家を守ってくれると言ってくれるその存在が優しすぎて、彼女の声は大きく、大きく室内に響き渡った。
そんな二人の様子を見ながら、星はやれやれと肩を竦めた。
「相も変わらず私の主はいつも通り、か。ああなっては桃香殿の意向も朱里の意向も、誰の意向も聞かんぞ? まあ私は誰が味方せずとも白蓮殿の味方だがな」
「……」
星の語りに、愛紗は星のことを羨ましげに見つめた。
――白蓮殿は……変わらない。昔のまま、桃香様の友であったあの頃のまま。たった一つ、我慢することを辞めた。
泣いている子供をあやす白蓮の姿に、愛紗は昔の桃香を重ねていた。
きっとあの頃の桃香なら、蒲公英の哀しみになりふり構わず近寄って抱きしめたはずだった。
今は此処にいないが、今の彼女であれば、朱里の結論を促す為にしたいと思っても耐えたことだろう。
其処が違う。今と昔では、主のナニカが大きく違うのだ。
自然と発生する気持ちによる行動を抑えてしまうようになった。その一寸の躊躇いが、相対する人間に与える影響は大きい。
桃香と白蓮は似ている。
心の在り方も願いの祈り方も……人への想いも。
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