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鎮守府の床屋
前編
10.祭だ祭だっ!!(前)
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なかった。いつものように制服の上から割烹着を着て、頭には三角巾を巻いていただけだ。

「提督さん?」
「おっ! ハル!!」
「忙しそうっすね」
「まあな! 今晩はみんなが楽しみにしてた秋祭りだ! 昨日の醜態の分を取り返さなきゃいかん!!」

 提督さんはいい人だ。こんないい人が忙しそうに立ちまわってると、こちらも何か手伝わなきゃいけない気がしてくるが……

「んふっふ〜。イカ焼き〜……やきっそば〜……りんごあめ〜……」

 こんな鼻歌を歌いながら実に楽しそうにされてると、なんだか邪魔するのも悪い気がしてくる……でも一応聞いてみるか。

「提督さん、なんか手伝うことあります?」
「あ、いや!! ハルには一つ頼みたいことがあるんだ!!」

 イカ焼き用のイカをさばく手を止め、水道で手をジャバジャバと洗った後、割烹着のすそでその手を拭きながら提督さんが近づいてきた。今までイカをさばいてた割に、身体から魚介類の匂いが漂ってこないのは、さばいてたイカが新鮮だからか?

「ハル。今日は艦娘みんなの髪を整えて欲しい」
「ほえ。全員ですか」
「ああ。みんなにはもう伝えてある。何人かは浴衣を着るそうだ。浴衣に似合う髪型にしてあげてくれ。出来るか?」
「了解です」
「代金は別枠で鎮守府に請求してくれ」
「いいっすよ。今日は無料でやります」

 今日はお祭りなんだ。だったら俺だってお祭りでいこうじゃないか。……なんてことを考えてたら、提督さんはそんな俺を見て、急にニヤリとする。悪巧みしてる時の、やんちゃ坊主の男の子みたいな笑顔だった。

「いいんだハル。今日の祭にかかった費用は、ぜーんぶ必要経費として司令部に請求するから」
「……そんなズルをやっていいんすか?」
「いいんだよ。この鎮守府は常日頃司令部に振り回されてるんだ。これぐらいでも足りないぐらいだよ」

 汗だくの提督さんは、そう言いながら川内のような眩しい笑顔を見せてくれた。なんという剛気……この秋祭の費用を全部というと、中々バカに出来ない金額になるはずなんだが……逆に言えば、それだけこの鎮守府の運営が厳しいのかもしれない。

 以前に球磨から聞いたことがあるが、かつてはこの鎮守府も、司令部からの支給品が潤沢に届いていた時期があったんだそうだ。それがいつの頃からか支給品がなくなり、資材の補充もなくなり、鎮守府の経営状況は悪化し……今では独自の補給線を確保し、残り少ない艦娘でなんとか鎮守府を機能させてる状況だと聞いた。必要経費も雀の涙ほどしか認められないため、こんなハレの日に一気に請求しているらしい。

「了解っす。んじゃ思いっきり高く請求しますね」
「よろしく頼む。……さぁあー俺は仕込みの続きだぁあ!!」

 提督さんはそう言うと、再びイカをさばき
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