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【短編集】現実だってファンタジー
それが君の”しあわせ”? その3
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だった場合も特にストレスを感じているようには見えなかった。

 すごく短期で損気に見えるのに、今のこの状況だけは立場が逆転している気がする。
 そして、その理由は……

「うふふふ………このラーメン店『なかむらぁめん』はニンニクの香りと独特の甘みが強い豚骨スープが最高に美味しいって評判なのよぉ……醤油も塩も味噌もいいけど、やっぱり豚骨は九州人の基本よね!」
(す、すごく楽しそう……!これから訪れるであろう至福の食事に想いを馳せてるんだ……!)

 それは、食を追求する者だけが分泌する幸せ物質――ヨダレ。ただ食欲だけ満たせればいいという安い感覚で食事をする悟子には決して辿り着きえない境地。彼女にとっては待つことさえもグルメの一部なのだ。

 なんて馬鹿らしい、と思うかもしれない。

 しかし、こーいう子供の時から変わらない子供っぽさこそが間宵という女なのだ。

 それを誰よりも知っているのが、他ならぬ悟子ではないか。

(もう……しょうがないなぁ間宵はさ)

 もしもここで自分だけ別行動を取れば、間宵はきっと寂しがるだろう。元気なさ気に麺を啜る間宵の姿が容易に想像できた悟子は苦笑した。

 しょうがない、今日は間宵に付き合ってあげよう――そう思った刹那、行列の後ろから悲鳴が上がった。

「ぎゃああああああーーーッ!!!」

 どさり、という音が続き、咄嗟に振り向いた悟子はそこでとんでもない存在を発見した。


 そこには泡を吹いて崩れ落ちる男性と、その男性の後ろに佇む巨大な人だった。

 ――大きい。身長162センチの悟子より頭二つ以上大きく、明らかに身長2メートル近くはある。肩幅も巨大で、おおよそ日本人とは思えないサイズだ。しかし、それ以上に悟子が驚いたのが直視するのが辛いほどにブサイクな顔だ。粘土を拳で殴りつけて完成させたようなある意味奇跡の造型は、この世の神秘を感じるほどに――申し訳ないが悟子から見てブサイクだった。

 しかも、よく見たらつけまつ毛や付け爪をして、その唇はルージュで赤く染め上げられている。そしてその服装は完全に女物のそれ。

(あれ……あれ女の人ぉッ!?)

 一瞬男性かどうか確信が持てなかったが、悟子の乙女的な直感が彼女を――いや、もう彼女というよりマウンテンゴリラだが――が女性であることを(決してメスではない)告げていた。

 そのゴリラ女は倒れた男性を足でどけて一歩前に出る。尋常ならざる気配と悲鳴に気付いて震えあがった手前の男性が「ヒィィッ!!」と叫び声をあげる。まさか、さっき倒れたあの男性はゴリアンヌ(今命名した)に剛腕で倒されてしまったのでは――そう思った瞬間、悟子は身の毛もよだつものを見る。

(は、鼻に指突っ込んでホジッてるぅ……ッ!?!?)

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