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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十八話  三年の月日
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を満たす事を考えろ、現実を思い知れ。そんなところだな……。

TV電話の受信音が鳴った。出たくなかったが無視するわけにも行かない。受信ボタンを押すと見慣れた顔がスクリーンに映った。
『やあ、元気かね、二人とも』
能天気な声に溜息が出た……。これは演技か? それとも……。八つ当たりだとは分かっているが殴ってやりたい……。



帝国暦 490年 10月 10日      オーディン   旧フェザーン高等弁務官府  エーリッヒ・ヴァレンシュタイン



「如何ですかな、少しは落ち着かれましたか?」
「なかなか、そうはいきません」
俺とボルテックは顔を見合わせて笑った。意味なんて殆ど無い。社交辞令の様な挨拶だがほのぼのする。相手はフェザーン人なんだけどな、妙な感じだ。多分ボルテックの出してくれるココアの所為だろう。オレンジが僅かに香るココアだ。これが美味しんだよ、凄く癒される。

帝国に戻って結構経つがなかなか落ち着かない。ようやく今回の遠征の戦闘詳報が纏まり論功行賞が行われる。まあこれは基本的に全員昇進だから問題は無い。問題は軍の編成と配置だ。同盟から領地が割譲されたからそれを含めて防衛態勢をどうするかを決めなくてはならない。それと人事異動、これも面倒な話だ。イゼルローン要塞司令官の人事を決めなければならないしガイエスブルク要塞を如何するかも決めなくてはならない。フェザーン回廊の出入り口に置くか、或いは同盟側の宙域に置くかだな。同盟側に置くとすればフェザーン回廊とイゼルローン回廊の中間あたりかな。要検討だ。

「同盟政府は帝国からの提案を受け入れるそうですな」
「ええ、レベロ議長が決断してくれました」
ウンウンという風にボルテックが頷いた。
「正しい決断をしたと思います。政治的には受け入れ難いでしょうが市民の生活を考えれば間違ってはいない。経済的には安定するでしょう。……それにしても上手いものですな、感服しました。株と国債を使って同盟を支配下に置くとは」
ボルテックが朗らかに笑った。

「支配下に置いた等と、人聞きの悪い。予算編成に関して拒否権を持っただけですよ」
ボルテックがまた笑った。
「私はフェザーン人です。金を押さえるという事が何を意味するのか、良く分かっています」
参ったね、俺も笑うしかない。確かにちょっとえげつなかったかな。リヒテンラーデ侯、ゲルラッハ子爵も呆れていた。レベロも憤慨しただろう。

「トリューニヒト前議長がレベロ議長と連絡を取ったのですが彼が説得する前にこちらの提案の受け入れを決めていたようです」
「ほう、トリューニヒト前議長がですか。……傍に置いていると聞きましたがそういう事ですか。憲法制定、辺境開発のブレーンだけが元議長の仕事では無いのですな」
興味津々、そんな感じだ。

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