竜の見る泡沫
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かっているのだ。
「誰だって最短を歩みたい。誰だって無駄を省きたい。頭がよければそれだけ無駄が見え過ぎて苛立ちや焦燥に駆られるもんだ。
どうしてこの程度が出来ない? どうしてこの程度が進まない? もっと効率的に出来る方法は分かっているのに……でも、自分の主が望むから、それが出来ない」
知力が高ければ高い程、何をするにも作業の効率化を図るのはいつの時代でも同じこと。
朱里の生きる時代よりも如実にその力が欲される現代を生きていた彼は、朱里の焦燥を看破していた。
それはこの世界に来て出会った貪欲な少女のおかげでもある。
彼の知識を求め、彼の思想を求め、彼の発想を求め、彼の全てを吸い尽くさんとする……賢き狼。
小さな世界で育っていた狼は、自分の頭の中だけで完結する世界に飽いていた。悪い言い方をすれば、彼女は人の頭の悪さに辟易としていたのだ。
極論、無駄を全て取り除いてしまえば其処に残るのは堕落だけ。ある意味で彼女は効率の極地に居たと言えよう。
最短式を立ててしまうことが日常の彼女にとって、異端とも言える方策を打ち立てる彼の存在はどれほど魅力的なことか。
閑話休題。
雛里や詠から聞き込みを行っていた彼は、諸葛孔明という天才がこの世界の劉備に対して抱いている焦燥を予測したということ。
だからまた、益州にて時計の針を進めようと思ったのだ。時間を短縮して何が齎されるかを理解していながら。
読み誤ることはない。さらに、きっと朱里もその程度は分かっているだろうと、史実で天才と呼ばれるモノと同じ名を持つ彼女を侮りもしない。
すっと細められた目が彼女を射抜く。
「さて……分かってると思うが、益州で内乱が起こることは劉備軍にとって利が大きくとも問題点が一つある。時の短縮は脆さを生み、思考と行動が限定化されるってとこだ。
簡潔に言えば筋道が決まって来る。乱世の終端まで一本道になってくる。お前さんらが勝利する為の戦を何処で起こすかある程度決まっちまうってこった」
「ど……どうしてそれを……自分から言うんですか……」
朱里の身体が目に見えて強張った。
瞳に浮かんでいたのは、怯えと憧憬。抑え切れない程に高鳴っている心臓は、逃げ出したいのにずっと居たいと二律背反を呼び起こす。
彼の行動はいつも意味が分からない。黙っておけばいいのに今此処で語る利も見えない。
対抗策はあると公言するバカが何処にいるのか。掌で踊らせるには、沈黙は金であろうに、と。
そんな彼女の心を見抜いてか見抜かずか、彼は小さく笑った。
「少し歩かないか? こんな辛気臭い天幕でする話じゃないだろうし」
外に出ると空が夜に近づき、朱が薄く広がっていた。
一歩前を歩く秋斗の
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