竜の見る泡沫
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。これはどっちにとっても利のある話だと思う」
久しぶりに聞く楽しそうな声は渇きに満ちていて、戦をしたくない彼らしいと今なら思えた。
気付きながらも合わせて、朱里は言葉を紡ぐ。
「……西涼侵攻に伴って益州の要所を奪取される恐れがある、そう偽って劉備軍と劉璋軍を完全な別個として分ければ後は貴方が着けた火種によって戦火が灯る、ということですね?」
「疑心暗鬼に駈られている重鎮達は挙って劉璋に献策するだろう。劉備軍をこのまま放置すれば袁術の二の舞になる故、曹操軍に気を取られている今を於いて排除の好機は無い……ってな」
「曹孟徳という強大な敵がいつかは侵攻して来るというのに?」
「愚問だな。わざわざ曹孟徳自らが益州を治めるわけじゃあないんだから、従っている振りでもなんでもして今まで通り好き勝手生きるだろうよ。
ぬるま湯に浸かった人間は変化を厭う。例え住んでいる場所が井戸の中だろうと、蛙は水がありゃ満足なのさ」
自分が考えていることと同じく、秋斗も益州を井戸の中と言ったのが嬉しくて、朱里の胸がトクリと跳ねた。
しかし抑えて、静かで冷たい思考のまま、彼女はまた口を開く。
「私達が西涼を見捨てる為の理由付けをくれる、というわけですか」
しん、と静寂が訪れる。ひりつく空気は感じない。
ただ彼の口元が目に見えて変わる。三日月型に引き裂き、より悪辣に。
反して、やっと合わせてくれた黒瞳は……昔よりも綺麗に澄んでいた。
「益州で内乱が起こったから救援には行けなかった。
お優しい仁君サマはまだ力が足りず、全てを救うことなど出来ない。だからせめて益州をなるたけ早く安定させて西涼の救援に駆けつける。
しかし……なんということ。願い叶わず大敵である覇王によって西涼は壊滅させられ、助けることは出来なかった。益州の民は内乱を治めた事実に加えて、他者を思い遣るその心に感銘を受け、責めるはけ口を劉璋達に向けることで過去よりも今と未来を向き直ってより深い妄信に染まり、この大地は今までにない安寧を手に入れることだろう」
芝居がかった口調はつらつらと。
彼と結んだ視線を繋げたまま、自身の淡く染まった頬に気付きながらも朱里は冷たく見えるように笑みを浮かべた。
「その通りに、行くとでも?」
「ああ、行くね。政治を上手く進める為には民の信頼が不可欠だ。劉璋や臣下達を疑う必要もなくなるし、安心して政策を進める地盤が何より欲しいんだろう?
徴兵するにしても、街の改革をするにしても、理想を叶えるにしても……何をするにも今の現状じゃ時間が掛かり過ぎる。それがお前さんは嫌で嫌でたまらないはずだ」
確信を持って突き付けられた言葉に、彼女の鼓動がまた早まった。
軍師として智者として、何よりも求めるモノを……彼は分
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