竜の見る泡沫
[5/15]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ないし、桃香の為にと内応なんかも出来ない。愛しい私の部下達もそんな奴等ばっかりだ。だから……うん、正直ほっとした」
納得、といったように頷く白蓮を見ながら、詠は呆れたように肩を竦める。
星は何処かおかしそうに喉を鳴らし、小蓮は白蓮の正直さに驚いていた。
「あんたってあれね、秋斗と友達になるだけあってどっか変」
「そうかな? ふつうって言われてばっかりなんだけど」
「まあ、ふつうですな。普通も過ぎると変だということでしょう」
「……お前はもうちょっと私に優しくしろ」
「私は白蓮殿と違って普通ではないので」
「変でも普通でもいいじゃん。白蓮のそういうとこ、シャオはいいと思うよ?」
「……小蓮、なんか恥ずかしいからそういうのは口に出さないで欲しい」
「えー? だって言わないと伝わらないでしょ?」
「ああ、白蓮殿は彼と同じく鈍感ゆえ、真っ直ぐに言ってやらねばならん。くく、いいぞ小蓮、これからももっと言っていい」
「あいつの鈍感と一緒にするなよ!」
緩い空気が漂い出す。白蓮が中心に居る時は、いつもこんな感じになっていた。
星は懐かしさから、胸がじわりと暖かくなる。此処に彼も居ればと願ってしまうのも詮無きこと。
「なぁ、荀攸」
「あいつとは喋らせないわよ」
そんな心の内を読み取ったかのように、詠は即座に否定した。
「でも、見送りくらいはするかもね。話したいならその時にでもすれば?」
つっけんどんな言葉であったが、少しくらいは許してやるらしく。僅かに目を伏せて星は感謝した。
夕刻の中、天幕の中では穏やかな時が過ぎる。
懐かしい味のお菓子とお茶を前にして、旧い話に華を咲かせる二人と聞き入っている一人。
その様子を見つめながら黙して語らず、詠は一人だけ思いを馳せていた。
――乱世が終わったら、あいつはどうするんだろう? こいつらと一緒に居たいのか、それとも……
少しだけ、彼女の心に疚しい欲が湧く。彼女が望んではいけない欲が。
この時、詠は……記憶が戻って彼女達に奪われる可能性が増えるなら戻らないで欲しいと、そんなことを一寸だけ思ってしまった。
†
時は少し戻る。
詠が白蓮達と別の天幕で話している最中、軍議用の幕内で脚を組んで机上を眺める男が一人。
広げられた大陸の地図の上には、碧、蒼、紅の三つ。茶色の駒はこかされていた。
言うまでもなく最後に残るであろう三勢力を表しているソレの前で、うっとりと頬を綻ばせる少女も一人。
やっと出会えた彼の前、まずは何を話そうかと思って踏み込んだ幕内には、朱里の望む乱世の様相が準備されていたのだ。
出迎えの挨拶は無かった。こちらを見ることも無かった。じっと動かない彼が、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ