竜の見る泡沫
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僅かに潤む。宝として胸に刻んであるあの時を思い出せば、今にも泣きそうになる。
「……ああ、そうさ。私は秋斗が誓った願いを――――」
けれどもぐっと堪え、瞳の中に輝く意思の光は些かも衰えることは無かった。
数瞬だけ言葉に詰まった。口に出してしまえばもうあと戻りは出来ない。曖昧で温い関係は終わりを告げる。いや……彼女達がまだ繋がってほしいと思っていた過去の繋がりを、断ち切ることになる。
ゆっくり、ゆっくりと噛みしめるように、白蓮は唇から声を流した。
「……この手で潰す」
苦渋の元に語られる決意は揺るがない。
どうしてこうなってしまったのか。そうして幾重も後悔を繰り返しながらも、やはり争うことは避けられないと分かってしまった。
元々、桃香の思想と秋斗の在り方の違いには気づいていたのだ。その齟齬を指摘せずに成り行きに任せてしまったのは白蓮の失態でもある。
あの幽州で介入出来ていたなら違った結末もあったであろう。彼が心の内に秘めているナニカを引き出してやれば、劉備軍でずっとやっていったはずだろう。
あの時徐州で彼は絶望に落ちなかったはず。桃香が間違っているわけではなく、彼が間違っているわけでもない。目指しているモノが同じだからこそ手を取り合えたのは間違いない。ただ……秋斗は人の暗い部分を信じ過ぎていて、桃香は人の明るい部分を信じすぎていたというだけ。
――これは私の責任だ。桃香と秋斗、どっちとも友達である私だけがあの二人の間に立てたのに。
痛む胸は自責から。もはや過ぎたことであっても、いつまでも痛みは消えない。
だから……だからこそ、今度は間違わない為に……と。
小さく口の端があがる。悩まずともよいのだ。白蓮はいつも通りに自分に出来ることをコツコツとやるだけしか出来ない。
「だってさ……いつも無茶ばっかりして、乱世のことばっかり考えて、あいつ自身に好意を向けてる女の子のことさえ気付かずに突っ走って……見知っている人々を想いながら顔も見たことのない人を想い、不確定の未来に縛られすぎて今を見る事の出来ない秋斗のこと……大好きだから」
白蓮にとって大切なのは今。宝物を奪われたからこそ、もう誰にもそんな絶望を与えたくなかった。そして、友達に誰かの大切を奪わせたくなくて、友達が誰かに憎まれるのも嫌だった。
星は彼女の心を理解して優しく微笑む。 詠の目は、彼女の言葉を聞いて見開かれた。
「あいつってバカで自分勝手なんだよ。いっつも他人のことばっかり想ってさ、自分が幸せになれるなんて思ってもいない大バカ野郎。
そんなあいつと一緒に生きて行きたいから、たった一人になっても戦い続けるようなあいつを止める」
綺麗な笑みは、彼を想っている心の証明。
雛里、詠、月……他の誰も浮か
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