竜の見る泡沫
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は、昔見た大好きだった微笑みのままで。
「この乱世が終わったら鳳統ちゃんと仲直りしてくれな? 友達同士で争うってのは、やっぱり哀しいことだからさ」
茫然と膝を着いたまま、朱里は去って行く彼の背を眺めるしか出来なかった。
ジクジクと苛む胸の痛みが誰に対する懺悔なのかも分からなかった。
頬を伝う雫の冷たさに、やがて嗚咽を漏らし始める。
愛しい人を壊したのは自分のわがまま。
大切な親友を絶望させたのは自分の欲望。
たった一つを欲しいと願っただけで全てが崩れてしまった。
忘れられるというのはどれだけの絶望だろうか。
今感じているこの心の痛みが、彼の中から自分の存在全てが消えてしまった事に対するモノならば、親友が受けた心の痛みはより大きいモノだと分かってしまった。
本当は此処で止まってしまった方がいいのかもしれない。
しかして止まれない。止まれるはずもない。
優しい主は苦悩しながらも平和な世界の為に命を積み上げる。
優しい仲間達は心を痛めながらも理想を目指して抗い続ける。
ついて来てくれる人々は、彼女達に理想を見て命を捧げてくれている。
故に彼女は……どれだけ後悔と懺悔に苛まれようと、もう止まる事など出来なかった。
闇夜に染まり始めた空の下。黒は竜の翼にキズを付ける。
其処に居るのはただ一人の少女。彼女一人でしか背負えない業を背負わせて、彼は薄く笑っていた。
「此処からは賭けだ。劉備軍が益州入りしてるなら赤壁は終わってないとおかしい。それに二面戦略にしてくれた方がこちらとしても有り難い。硝石の状況から見ても火薬が使われないのも分かった。これで懸念事項はほぼ消えた。
願わくば……俺の描く“乱世の確率事象”に捉われてくれ」
黒の外套を揺らして彼は陣内を進む。
決して嘗ての友には出会わないように、一人の兵士に朱里の居場所だけを伝えるよう言伝を頼んで。
入り口とは真反対の陣の外で、彼は柵に腰かけて一息付いた。
ジジ……とノイズの入る思考と、ぐらつく身体。顔を片手で覆って、掌の隙間から見える瞳には闇色が渦巻いていた。
小さく、ほんの小さく唇が動いた。
誰にも聞こえない囁きは、闇夜に溶けて消えてしまった。
――赤壁で会おう、朱里。
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