竜の見る泡沫
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理解していたことも。
自分では辿りつけない異質過ぎる読みは、もはや彼女にとって未来予知に等しい。
言われて考えてみれば、段階を踏んだその流れが一番勝ちに近付けると気付いてしまった。
総力戦で戦おうと考えていた自分が愚かしかった。
違うのだ。あくまでそれは、人々の、大陸の疲弊を考えた優しい優しい乱世の遣り方。
本当に勝ちたいのならば……真綿で首を絞めるように、ゆっくりと弱らせてから仕留めるべきなのだ。
博打のような決戦を挑むでなく、勝利を確信出来る状況を作り上げてから戦うべし。
彼の描いている乱世の絵図はそういった類のモノ。実現できると確信しているから話しているのだ。
僅かに翳った黒瞳は輝きを失わず、渇望が見え隠れする色が渦巻いていた。
「……もう人には戻れないんじゃねぇかな」
一寸映し出された哀しみの意味を、朱里には読み取ることが出来ない。
「話は終わりだ。俺の提案に乗っても乗らなくてもどっちでもいい。どちらにしろ俺達の行動も、乱世の流れも変わらない」
確信する。もう自分は目の前の男から逃げられないと。
わざわざこれからの戦の全てを語ったということは、そうなるように手はずと整えたと同義なのだ。
彼の予測を超える事が出来なければ自分達は勝てない。彼が描く乱世を崩すことが出来なければ自分の望みは叶わない。
「まずは漢中。其処で手を打てば時間を早めることは出来る。その代わり、お前さんら劉備軍は乱世の勝利に必要な兵数を失うがな」
自身の甘さを自覚する。
この益州だけで彼を閉じ込めることなど不可能に近いのだ。何せ、彼はもう次に何を起こすか決めているのだから。
じわり、と朱里の中の欲望がカタチを持って現れる。
やはり必要だと思った。自分の考えは間違っていなかった。
「どうしてそんな事が分かるのか、なんてもう聞きません」
一時的に噂になった存在。
自身の主や覇王、それらの英雄と呼ばれるモノよりも上位の存在。
例えどの勢力に属していようと、きっと後の世界を平穏に導くであろう天よりの使者。
「……あなたは……天の御使い、なんですね」
心を決めて朱里は彼の首に腕を回した。
熱っぽく火照る頬を彼の頬に押し付けて、確かに此処に居ると感じ取る。
自分にしては大胆な行動に出たが、無理に押しのけようとしない彼に安堵しつつその優しさに甘えてしまう。
早鐘を打つ心臓をひた隠しにして、ほんの間近にある彼の瞳を覗きこむ。
今から伝えるのは自分なりの宣戦布告。ずっと彼の隣に居る親友に対して。そして、世界の意思をもう一度味方に引き入れる為の。
「きっと……あなたを手に入れてみせます」
見えた黒瞳には悲哀の色。
天の御使いという
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