竜の見る泡沫
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が、これ以上聞くなと警告を促している。
心に湧き立つ恐怖とは別に、もっともっとと黒い獣が喚いていた。
――ただの地名なのに、どうしてこんなに胸がざわめくの?
彼はいつでも重要なことはぼかす。相手に考えさせて答えを掴ませる。
一つ一つと確認していくと……定軍山、というモノに一番引っ掛かった。
――城のないただの山……? そんな所で何が出来……あ……うそ……
ぞわりと、恐怖から彼女の全身が震えた。唇が震える。この予測がそうであるのなら、彼は今、人では出来ない話をしているのだ、と。
ただの山で出来ることなど多くは無い。
否……国同士がやれることなど、一つしかない。
――全部……戦が起こせる……しかも戦略的に最重要になり得る地点。こんな……こんなの……
正しく、目の前の男は化け物だと、朱里は思った。
政治的な理由を作り上げれば、いとも簡単に戦は起こせる。
まずはラク城と成都。彼はそう言った。
今回、彼はわざわざ使者として付いて来てまで益州をかき乱しに来た。荀攸だけでも事足りるというのにわざわざ、である。
彼が来なければただの宣戦布告で終わったはず。いつかは奪いに行くから首を洗って待っていろと言うだけで、益州が戦火に沈むことは無いはずだった。
しかし彼が来たことで益州では戦が起こる。何処で起こすかは朱里達次第。益州平定の為に必要だと思うからこそ、朱里にとって戦をすることは絶対。
では何処で……と考えた時、彼が言った地名は一番コトが起こし易い条件がそろっていた。
ならば他に出した地名も、其処で戦を作り上げられるということだ。
――いつから、違う、何処まで……この人は読んでるの?
彼の黒瞳には確信が浮かんでいた。
見えないはずの未来を覗いて来たように、そう朱里には感じられる。
口の端だけ吊り上げた彼が、朱里のルビーレッドを覗き込んだ。
「最後に二つで終わる。一個として当てるよりも個別で当たった方がそっちの二国は強いだろ? なら、これで勝てる可能性は一番高くなる。その為に準備を進めりゃいい。当然、対策はさせて貰うが」
楽しそうに、嬉しそうに、それでも渇きを映し出して、彼は笑った。
すっと近付けられた唇。耳元で囁かれる甘い声音が、朱里の心を掴んで離さない。
「最後の二つは、合肥と……五丈原だ」
嗚呼、と朱里は声を漏らす。もう抑えられなかった。
震える手が、唇が、身体が、目の前の化け物の恐ろしさを理解していた。
「あ……あなたは……本当に……人、ですか……?」
朱里は知っている。
黄巾の時にはもう、大陸を三つに割ることを考えていただろうことも。
桃香が唯一、覇王に対抗出来る大徳に成長すると初めから
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