竜の見る泡沫
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後ろ、朱里はその美しさに想いを馳せる。まるで焦がれる恋心を表しているようだった。
しばらく無言で歩いた先に、木で組まれた簡易な椅子が一つ。現代で言えばベンチのようなモノが陣幕から離れてポツンとあった。
ストンと腰を下ろした彼に倣い、朱里は少しだけ離れて隣に座った。
「……燃えてるみたいな空だな」
「……はい」
他愛ない言の葉。乱世のことを話すでなく、彼は空のことを語った。
そういえばと思い出すのは、前も二人きりでこうして空を見上げたことがあった過去。
空のような人になりたいと願った彼。その話を聞いたのは朱里だけ。人の心を映し出す鏡だと、あの時の彼は言った。自分には焦がれる恋心だと思えた……なら、彼にはどう見えているのか、朱里は気になった。
しかし尋ねる前に、彼の口から言葉が流れる。
「夕暮れの空に溶けた想いがある」
ぽつり……寂しそうな声は何を想ってか朱里には分からない。
「救いたくても救えなくて、変えたくても変えられなくて、それでも止まることなく世界は回る。いつか変えられるって信じながら進むしか出来やしない。そうやって走って、足掻いて、もがいて、這いつくばって……それでも手に入らない時ってのはあるもんだ」
朱里に語っているようで、自分に言い聞かせているようにも見える。やはり何が言いたいのかは分からない。
ふっと小さく息を切って、彼は天を仰ぎ……
「けど変えてみせよう、今度こそ。確かにあった想いを嘘にするわけにはいかないんでな。俺は止まることなんかしてやんない」
声のトーンが重く、冷たく落ち込んだ。
朱里はこの声を聞いたことがあった。桃香に洛陽で問いかけた時、徐州で幽州への救援如何を確かめた時、決まってこんな声を出していた。
一気に張りつめた心を落ち着ける為に、朱里はするりと腰から白羽扇を抜いて口に当てる。
目だけは、彼から逸らさなかった。
「……本来の流れからはもうズレちまったんでな」
黒の瞳に影が渦巻く。冷たくて無機質な色には、嘗てあったはずの信頼など欠片も無かった。
「まずは……ラク城から成都。これは確定」
口から出たのはただの地名。それも益州のモノ。何が、と言う前に彼は続けて行った。
「あとは樊城と……夷陵、かな」
次は荊州。こちらは安定している為、何かコトを起こすにしても曹操軍が其処まで侵攻して来ない限り有り得ないと朱里は考える。何か繋がるモノがあるか。どうすれば繋がるのか、思考がゆるりと回り出す。
しかしまだ、彼の言葉は続く。
「んで定軍山、あとは街亭、陳倉もか。他にもいろいろあるけど、終わりまでで主だったのはこれくらいかね」
気付けば掌に汗が滲んでいた。回転する思考が弾き出し始めている答え
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