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乱世の確率事象改変
竜の見る泡沫
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 小蓮の問いかけには答えない。取り合うことすら無駄とでもいうように。
 むっとした小蓮が頬を膨らました。子供に向けるような目で見られれば不機嫌にもなる。

「……知ってるさ。その返事の意味も含めて小蓮と一緒に来た。
 私達は、劉備軍は孫策とコトを構えない。桃香だけの意思じゃない。これは劉備軍の総意なんだ。劉璋はどうか知らない……もし、あいつらが揚州に対して何かをするなら、私達は全力で止める」

 真摯に見つめてくるその視線に詠は一寸だけ目を瞑る。こうまでまっすぐ言われては毒気も抜けるというモノ。
 驚いて白蓮を見た小蓮は、グシグシと頭を撫でられて目を細めた。子ども扱いするなと頬を膨らましてはいるが、何処か穏やかにも見える。

「そう。一応聞いておくけど……帰らないの?」

 詠は指を一つ立て、冷たく鋭く、言の葉を流す。視線に乗るのは憂いか、はたまた呆れか。

「“幽州”はあんた達のことをずっと待ってるわよ」
「……」

 目に見えて表情が曇る。白蓮の心に思い出されるのは幾多もの過去。
 大切な大切な宝物。自分の存在全てを賭けて守ると誓った……家族が暮らす大事な家。
 手に入れたモノは数え切れず、失ったモノは数多い。楽しい時間も、苦しい時間も、辛い時間も、穏やかな時間も、もう遥か昔の出来事のように思えて、まるで全てがまほろばの出来事のよう。

 それでも……拳を握った。

「……ああ」
「あんたの命令を無視してでも、あんたに帰って来て欲しいからって戦に向かった、白馬の王に義を捧げた兵士達が居るのに?」
「……」
「想いよ届けと歌を歌い続け、新たな主よりもたった一人の王の帰還を待ち続ける、そんな優しい民達が心待ちにしてるのに?」
「……っ……」

 情報を集めていたから知っている。
 彼女の心を救った幽州の人々は、今も尚白蓮だけを王としているのだ。嬉しくないわけがなく、戻りたくないわけもない。

 全てを投げ捨てて帰れたならどれだけ楽になれるだろう。
 皆が望む通りに戻れたならどれだけ安息の日々を過ごせるだろう。
 大好きなあの場所で長老達と街のことを語り合いながら、ゆったりのんびりとお茶でも飲めたなら、どれほど幸せだろう。
 そして……

「……“秋斗”とあんた達がした一つの願いを、あんた達がお互いで壊してしまうっていうのに?」

 遠き日の願いを叶えることが出来る。どれだけ……彼女達が望んできたことだろう。

 夜天の願いと名付けたそれは、三人にとって特別な約束なのだ。

 白蓮は家を守りたい。
 星は己の正義を貫きたい。
 そして彼は……この世界を変えたい、と。

 半分の月が微笑む夜天に謳った願い。大きな想いを宿した始まりの刻。
 悲哀の色が濃くなった白蓮の目が
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