竜の見る泡沫
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集まっているのは四人。もうすでに朱に色付き始めた空の下ではなく、薄暗い天幕の中。
曹操軍の陣内にて向かい合うのは、三人と一人。
彼に会いに行く、と言った朱里についてきた三人……白蓮、星、そしてここ最近白蓮の後ろをついて回っている小蓮が、イヌミミフードの軍師と相対していた。
沈黙は肌を突き刺すように鋭く、視線に浮かべられた敵意は戦場とは別種であっても大きい。
星と白蓮の目の前に居る少女の睨みはいつも大バカ者どもを震え上がらせるモノではあっても、今回は悪感情を乗せている。
まるで大切なモノを奪いに来た輩を見るように……星と白蓮はそう感じる。彼女が瞳に浮かべているモノは誰かに似ていた。
ああ、と思い出したのは二人の内どちらであったか。いや、どちらもがほぼ同時に、目の前に居る詠のような目を見たことがあると気付く。
――あいつと一緒だ。あいつと……秋斗が桃香に付いて行くのを止めようとしてた牡丹と。
幽州からの旅立ちの時、そして洛陽で帰って来いと引き止めた時、牡丹は今の詠のような目をして桃香に悪態をついていたのだ。
白蓮はきゅっと唇を噛みしめる。星はやれやれと肩を竦めながらも哀愁の吐息を零した。
このまま黙っていても何も進まないと、口を開いたのは星だった。
「……些か酷くはないかな、荀攸?」
「何が?」
「せっかく久しぶりに我ら三人が揃ったのだから少しくらいは楽しんでもいいだろうに」
「却下よ。あいつの所に通すのは劉備軍の使者として訪れた諸葛孔明だけ。あいつはもう“話し合い”も“旧交を温めること”もしない。これはあいつの決定事項」
ジト目で返される返答に疑問を持ったのは二人共。
よく知る彼であれば、星や白蓮が同席していようとなんら気にせず自分のしたいようにするはず、と。
しかし、もはや彼と彼女達は敵同士。これも詮無きことか、と二人は思考を割り切った。
「でも挨拶くらいはするもんじゃないの?」
詠の敵意を認めながら、コトの外に位置する小蓮からの意が飛ぶ。礼節を重んじる今の時代、小蓮の言い分は至極真っ当であろう。
脚を運んだモノに顔を見せないのは体面上よろしくない。使者として赴いているのなら、礼を失しては華琳の顔に泥を塗ることになるのだから。
ただし、礼節を重視する格式ばった交流であればこそその話は通じる。白蓮と星は個人的な理由で着いて来たと自分で言ってしまった。親しき仲ならば場を弁える時も必要であろう。それが敵対している主を掲げるモノ同士ならば余計に。
小さく鼻を鳴らした詠は呆れの笑みを浮かべた。
「その肌の色、蒼い目、桃色の髪……ふーん、孫呉から連れてきたんだ。
公孫賛……あんたまさか劉璋との謁見の内容を確認せずに此処に来たんじゃないでしょうね?」
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