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鎮守府の床屋
前編
9.季節外れの恐怖
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……戦死したのか……。

 川内の両隣にいるのが、おれが今回見た女の子たちで間違いないようだ。川内と同じベースの服を着て、一人は凛とした美しさの女の子、もう一人がとても明るくて……それでいてどこか張り倒したくなるムカついた笑顔をしている女の子だ。

「その子たちは、神通と那珂だ。二人とも川内の妹だよ。もう轟沈してだいぶ経つ。二人とも戦闘になればそれこそ目を見張る強さだったが……それ以上にとても優しい子たちだった……」

 そう言って提督さんは、窓の外を眺めた。その目はどこか遠いところを、懐かしそうに眺めていた。

「そっか……お前たちが猫をか……変わらないな……お前たちらしいなぁ……優しいなぁ……」
「……なんかすみません。余計なことを聞いて……」
「謝るようなことじゃないさ。この前も言ったけど、俺は嬉しいんだ。古鷹は加古を見守ってくれてるし、神通と那珂の二人は、今も変わらない二人だった。こんなうれしいことはないよ」

 それはウソだと言う言葉が喉まで出かかったが、おれはその言葉を吐いてしまうことを必死にこらえた。

 なぜなら、もしそれを言ってしまえば、わざわざ隠すように写真を引き出しにしまっていた提督さんの気持ちを踏みにじってしまうような気がしたからだ。

「そうか……二人がか……うれしいなぁ……」

 今にも泣き出しそうな笑顔で思い出せる人を、唐突に失う時の気持ちは俺にはまだ分からない。でも、そんなにつらい思いで失ってしまった仲間を思い出すときの気持ちは、きっと嬉しさだけじゃないってのは、俺でも分かる。

 それでも必死に、涙声で『うれしいなぁ』と自分に言い聞かせる提督さんの後ろ姿が、見ている俺にはとても辛かった。

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