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鎮守府の床屋
前編
9.季節外れの恐怖
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頭には三角巾という妙なスタイルで提督さんが自分の分の朝食を持ってテーブルにやってくる。隼鷹の隣に座り、震えるテーブルに朝食のおぼんを載せるのに少々苦労した後、自身が作った味噌汁を飲んでホッと一息ついていた。

「そうですか?」
「ああ。鎮守府のセキュリティ面から考えると、正体を突き止める必要がある。ひょっとすると得体の知れないものが鎮守府の敷地内にいるのかもしれん」

 と、ご飯を口に頬張りながら至極まっとうな反応を返す提督さん。考えてみたらそうだよなぁ……夜にフワフワと漂う光……一番疑うべきは侵入者のライトだもんなぁ。

「よし。今晩ちょっと探ってみよう。今夜の哨戒任務のシフトは誰だ?」
「私〜」
「あと……あた……ぐぅ……」
「よし。北上と加古の二人はそのまま今晩の哨戒任務についてくれ」
「はーい」
「ぐぅ……」
「残った五人で、今晩火の玉の調査をしよう。……でも五人じゃ多いな……隼鷹は夜では戦力にならんから除外。暁は基本的に9時を過ぎると寝てしまう……てことは……」

 提督さんのそのつぶやきを聞いた途端、今まで眠そうにうつらうつらと船を漕いでいた川内の目に光が灯った。

「てことは?!」
「だな。川内、ビス子、球磨の三人で、今晩林の調査をしてもらいたい」
「やったぁぁああああ!!! 待ちに待った夜戦だぁぁああああ!!!」
「了解だクマ」
「えッ?! わた、わた、私?! 私も行くの?!!」

 川内は急に席を立ち、『あそーれや! せ! ん!! あはーいや! せ! ん!!』と意味不明なボン・フェスティバル・ダンスを舞い、ビス子を震源とする局所的な地震が震度をあげた。おれは波打つ味噌汁のお椀を手に取り、ビス子にこぼされる前に逸品の味噌汁を堪能する。

「は〜……味噌汁おいしい」
「恐ろしく他人事クマね」
「そらそうだろう。お前らにとってバーバーちょもらんまの経営状況が他人事であることと同様、お前たちの仕事は俺にとっては手の出しようのない他人事だ。いくらお前たちのことが心配でもな」
「なるほど」

 静かに味噌汁の味を堪能しつつ、ご飯を頬張って日本人に生まれた喜びをかみしめていると、提督さんと目が合った。提督さんは、なにか言いたげな目で俺を見つめている。やだ……そんなに見つめられたら俺……

「そういう茶番劇は耳掃除の時だけで充分だクマ」
「さいですか。……んで、提督さんなんです?」
「ああ。実はハルにも同行してもらいたいんだが……」

 What? あいべっぐゆぉーぱーどぅん?

「ぷぷー。これで他人事ではなくなったクマ。ニヤリ」
「いや、本来なら民間人を巻き込むことは控えたいんだが……」

 提督さんは、非常に申し訳無さそうな目で俺を見た後、川内とビス子の方に目線を向けた。
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