2部分:第二章
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第二章
その彼等にだ。教授も大人げなく言い返す。そして遂にこんなことを言ってしまった。
「よし、じゃあ阪神が今年優勝したらだ」
「ええ、優勝したらですよ」
「どうするんですか?」
「俺達に何かしてくれるんですか?」
「とっておきのことをしてやる」
彼は断言した。まさに断言であった。
「吉野の吊り橋を渡ってやる」
あの怖いことで有名なそこをだ。渡ってみせると言ってみせたのである。
「わざわざ奈良の吉野まで行ってだ。渡ってやるぞ」
「本当にしてくれるんですね?」
「そうしてくれんですね」
生徒達は教授に対してその言葉を確認する。流石に吉野の吊り橋となるとそいじょそこいらのことではない。それで確認を取ったのである。
そしてだ。教授もだ。その彼等にだ。
胸を張ってだ。言い切ってみせた。
「ああ、絶対にしてやるからな」
男に二言はないということだった。本当にそうするというのである。
そしてだ。その年は何年かというとだ。
昭和六十年、一九八五年だった。阪神ファンでこの年を覚えていない、知らない者はいない。
まさにフィーバーだった。阪神はセリーグを制覇し日本一になった。日本中を黒と黄色が席巻し六甲おろしの曲がこれでもかと鳴り響いた。親は子供どころか己の頭さえ虎刈りにし縦縞の車が出て来た。これでもかという程阪神の話題でもちきりだった。まさにこの年の主役は阪神だった。
そして教授は見事吉野の吊り橋を渡った。まさに男に二言はなしだった。本当にそうしたのだ。
ところがだ。この教授はだ。
実は阪神を嫌いだと言いながら熱烈なファンであった。口ではそう言ってもだ。内心阪神が優勝したらそこまでしてやる、と本気で思っていたようである。そして実際にしてみせた。人をそこまで熱狂的に応援させるスポーツチームは他にあるだろうか。おそらくないだろう。思うにつけ阪神というチームは不思議なチームである。
吉野の吊り橋 完
2011・3・30
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