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吉野の吊り橋
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第一章

                     吉野の吊り橋
 その教授の名前はとりあえずは仮名として上坂としておこう。ある有名な大学の政治学の権威だ。その筋ではかなり知られた人物である。
 政治についての発言や見方は冷静であり的確であると言えた。しかしだ。
 この教授にはいささか困ったところがあった。それが何かというとだ。
 野球に異常にこだわるのだ。とりわけだ。
 阪神タイガースという球団にだ。何かと言っていた。彼の頃から阪神はここぞという時には常に負けていた。最終戦で甲子園でよりによって巨人に負けて優勝を逃した、しかも巨人が優勝した昭和四十八年のことはその中の一幕に過ぎない。とかくここ一番になると華麗に負ける。それが阪神だった。この頃も同じだった。
 その阪神についてだ。彼は常に言っていた。それはこの時もであった。
 生徒達の前でだ。彼は言い切った。場所は彼の研究室だ。そこに生徒たちが集まって野球の話をしていたのだ。彼はそこで言ったのだ。
「俺は阪神は大嫌いだ」
 尚彼は関西生まれで関西の大学にいた。それでこんなことを言えばどうなるのか。普通に考えれば言うまでもないがとにかく言ってしまったのだ。
「あんなチーム二十世紀には優勝はない」
「いやあ、優勝しますよ」
「そうですよ、今年はですよ」
「絶対にしますよ」
 生徒達はややムキになって教授に言い返す。彼等の出身は関西が多い。それならばだ。阪神ファンが多いのは道理であった。
 彼等はあくまで阪神は今年こそ優勝すると言う。教授と完全に対立してしまった。

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