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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
35.覗きこむほどに、深く
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、誰も知らない。元は『テティス・ファミリア』というファミリアの所有する屋敷だったそうだが、肝心のファミリアは『地獄の三日間』で壊滅し、主神も天界へ戻ってしまった。そのため世間では「オーネストが天界に戻る前のテティスを脅して奪った」とか「あの慈悲深い女神のことだから譲ったんだろう」とか様々な噂が流れているが、どれも真実たりうる根拠が欠落していた。

 ただ、オーネストとこの屋敷に何かしらの関係があるのは確かだ。

 メリージアがオーネストに何故二階を使わないのかを問うたとき、彼は「この先にはなにもない」と告げた。その際のオーネストはどこかここではない遠くを回顧しているようで、彼女は彼がこの先に触れてほしくないのだという端的な事実を悟った。
 また、何か必要なものがあるときにオーネストは二階へあがってどこからか物を持って降りることがある。この時もまた、「どうせ二度と使われない物だ」と誰かに言い訳するような言葉を残す。メリージアはこの屋敷のメイドとして二階の窓や廊下を掃除することはあるが、個室に関しては手を付けていなかった。そこはオーネストにしか触れる権利がない場所のような気がしたからだ。
 更に、屋敷の三階に関しては「足を踏み入れるな」と直々に禁止令が降りた。彼がこういう言葉を口にするのは珍しいことだったので、メリージアはよく覚えている。

 オーネストの本心はいったいどこにあるのだろう。
 寂しそうなオーネストと、暴れているオーネスト。
 呆れているオーネストや、微笑んでるオーネスト。
 どれが本当のオーネストなのか、メリージアは時々わからなくなる。
 同じ人である筈なのに、彼には破滅的な凶悪さと垣間見える慈悲、そして目に見えない何かにする哀しみが同居している。その継ぎ目はいくら目を凝らしても見えて来ず、どれが本当のオーネストなのかが今でも分からない。

 そう口にすると、アズは「全部含めてオーネストさ」と言って、にへら、と笑う。

 人間にはいろんな側面がある。例えばメリージア自身、初めてオーネストたちに出会った時と今の自分は別人のように思える。常に即決即断でブレないように見えるオーネストも、もしかしたら自分と同じように変わっているのかもしれない。



「玄関に剣を置きっぱなしねー……よっぽど慌ててたのか?オーネスト様がこういうことするの珍しいなぁ〜」

 二本の剣を抱えてふらふらしながら、メリージアは呟く。この剣は間違いなくオーネストの剣だ。微かにオーネストの匂いもするし、この型の剣を使う剣士でこの屋敷に近寄るのはオーネストだけだからだ。メモ書きには「忙しくて昼には帰れなかった」というメモ書き。これも名前は書いていないがオーネストの字だ。
 だったらこの剣はオーネストの元に運ばれるべきだろう。そしてそれをやる
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