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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
34.彼岸をこえた小さな背中
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、花瓶ごと代えるよう命令してある。丁寧に花瓶を置く召使だが、こいつが作業台のすぐ近くに存在すると言うだけで虫唾が走る。
 ここは神聖な場所なのだ。何も分からぬ愚か者が足を踏み入れること自体が愚かしい。目的さえ終えたらとっとと追い出してやりたくなる。

「如何いたしました?何やら顔色が優れぬ様子ですが……」
「ああ、いや。最近少し忙しかったのでな……今日の夕餉は精の出るものを頼むよ。寝れば身体もよくなるさ」
「左様ですか……あまり無理はなさらぬようにしてくださいませ。貴方様はわたくしの仕える主。主の身に何かが起きては、わたくしは貴方様に申し訳が立ちませぬ」

 さも心配そうに顔色をうかがうこの男に焼き鏝を押し付ければ、どのような声で鳴くだろうか。きっとこの世のものとは思えぬほど悍ましい死に際の豚のような声をあげるだろう。こいつは僕はそんなことを考えているなどと思いもしていないだろう。

「心配するな。もう行け」
「……御用がおありでしたら、いつものように呼び鈴を」

 ああ、苛立たしい。出て行けと言うのが分からないのか。お前は邪魔なのだ。必要な時に必要なだけ口を開き、それ以外は沈黙して近寄らなければいいのだ。召使いが出て行ったのを確認し、僕は焼き鏝を放り出した。今はストレスで集中できないし、花も来た。しばし心を落ち着かせながら新聞でも読むことにする。

「………7人連続の不審死……ふくクッ……次の新聞では8人目の登場だな。もうすぐあがりだ、僕の最後の大仕事が!なあ、そうだろう!?そうだよな………あははっ、はははははははははっ、あはははははははははははは………!」

 壊れたカラクリのように笑いつづける男の作業台には、美しい桜色の牡丹の花が静かにたたずんでいた。

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